贈与税の基礎控除110万円がなくなる日の混乱。

贈与税の基礎控除110万円がなくなる日の混乱。

2021年の税制改正大綱では、資産家だけでなく庶民がドキッとする検討がなされました。

それは贈与税の非課税枠である基礎控除110万円を廃止するという内容です。結局、今回の税制改正には具体的に盛り込まれませんでしたが、今後本格的な検討を進めると明記されました。

これは保険業界のみならず、贈与税の基礎控除枠を活用した節税スキームを得意とする業界に重大な影響が懸念されます。

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◆ 庶民には理解できない贈与税。

国税庁のサイトには下記の様に贈与税が定義されています。人から人へキャッシュや財産価値のあるものをあげれば贈与となり、年間110万円以上の部分に贈与税という日常的には意識することがない税金がかかります。

【国税庁】

贈与税は、一人の人が1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に対してかかります。 したがって、1年間にもらった財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません(この場合、贈与税の申告は不要です。)。

贈与税の基礎控除額は、受贈者(もらう人)一人あたり60万円という時代もありました。2001年1月1日以後の贈与から、110万円に引き上げられ活用の幅が広がりました。

そもそも日常的に扶養の範囲で渡すお金は贈与にはなりません。扶養の範囲を逸脱した車を買うお金やローンの頭金などの基礎控除110万円を越える部分は贈与とみなされます。しかし相続税がかからない庶民層では贈与税を意識することもないと思いますし、贈与税の申告をする必要もありません。

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◆ 税制調査会の考え方と言い分。

相続税対策の基本は生前贈与です。その基本となる贈与税の非課税枠は「資産移転の時期の選択に中立的でない。」などと政府税制調査会の見解が述べられています。

これまでの政府の考え方は生前贈与を促進して、贈与税の基礎控除を60万円から110万円に増額したり、相続時精算課税制度を導入したり、あるいは教育資金の一括贈与を時限立法として成立させたりと資産家に有利な制度を景気刺激策の名目で促進してきました。しかし今回の贈与税の非課税枠の見直し検討の理由は、これまでとは違った見解で構成されています。

さらに政府税制調査会は「相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直し、格差の固定化を防止しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制を構築する方向で、検討を進める必要がある。」としています。資産移転策による景気刺激の名目で資産家擁護の政策を見限って逆噴射したような内容です。

確かに、贈与税の基礎控除が廃止されるようなことになれば、非課税枠を使った生前贈与がやりにくくなり、資金の移転が進まない中、相続税で決着を見ることになります。そうなると世界一厳しい相続税がものを言いますから、資産家にはダメージが大きくなると考えられます。

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◆ 贈与税の基礎控除がなくなれば暦年贈与は終わり。

贈与税の非課税枠を利用した暦年贈与は、毎年、保険料として親から非課税枠の範囲で贈与を受け保険料支払いにあてる仕組みです。

契約者:相続人(子)

被保険者:被相続人(親

受取人:相続人(子)

親から子へ110万円贈与、親が被保険者となり体を提供します。子は契約者(保険契約の所有者)として贈与されたお金を保険料にあてます。親が亡くなると子は、死亡保険金を受け取りますが、支払った保険料を差し引いた儲けの部分は、相続税でも贈与税でもなく、半分に所得税が課税される最も有利な一時所得として受け取ることができます。

この非課税枠を活用した暦年贈与による保険設計スキームが成り立たなくなります。この場合は過去の契約に遡及しないとはなりませんから暦年贈与をしていれば、保険料の贈与分は贈与税の課税対象となることになります。

相続税がかからないのに贈与税の申告が必要になるという悲惨なことになりますから、解約を検討される契約者が増加すると考えられます。この暦年贈与の仕組みは保険業界だけではありませんから影響範囲は甚大です。

さて、政府税制調査会はどこまで本気なのでしょうか。コロナ禍で不足する税収を無理からでも取りに来る強硬姿勢が続いていますから、今後警戒が必要です。

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◆ 贈与税の基礎控除がなくなる日、まとめ。

贈与税と相続税はセットで考えるようになっています。贈与税で押さえておいて、漏れ残った資産を相続税で受ける仕組みです。贈与税の強化策で生前贈与を締め付ければ、資産は移転しにくくなり、相続税で一気に清算することになります。

相続税の考え方は所得税の補完という役割があります。所得税で取り漏らした資産を相続税で清算していただくという二重網方式です。うまく立ち回って所得税を少なくして資産を増やしても、その先には超過累進課税の相続税の網が張ってあるというわけです。

相続税の役割は、富の集中抑制と言われます。相続税があるから社会の公平性が保たれるというわけです。半面では、資産を築いても3代でなくなり貧乏に落ちると言われるように相続税の厳しさは群を抜いています。

もし贈与税の非課税枠がなくなるようなことになれば、生前贈与の基本が崩れ資産の移転が進まなくなるばかりか、中小企業に事業承継にも影響が及ぶと思います。

我々国民が口出ししても何かが変わるわけではないのですが、それでも贈与税の基礎控除の廃止には慎重になるべきかと思います。一つの方策として、基礎控除110万を定めた特別措置法を廃止して本則に戻せば、基礎控除枠は20年前の60万に戻ることになりますが、それでも混乱は避けられないところでしょう。こういう社会制度をいじると、各業界に弊害が発生するということを十分認識して政策決定願いたいものです。

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