特別寄与料は争族の火種、息子の嫁に報いる生命保険。

特別寄与料は争族の火種、息子の嫁に報いる生命保険。

特別寄与料の制度は、2019年の民法改正により導入(同年7月1日施行)されました。法律の改正は、どうしても机上の理論になりがちです。

しかし法律の影響を受けるのは、生身の人間です。人の気持ちに配慮できていない法律の改正は、問題を改善するどころか、争族の火種になることさえあります。

新設された特別寄与料の問題点について、その恩恵を受けるであろう相続人の嫁の立場で記事を書きました。特別寄与料の請求権は、相続人以外の貢献に報いる制度です。

息子の嫁以外にも特別寄与者はいると思います。しかし嫁の立場では特別寄与料を相続人に請求するなどということは、心情的になかなかできることではないのです。特別寄与者の献身的介護をないがしろにする、いやらしい制度という面は否定できないと思います。

■子がないと被相続人の兄弟に相続権、遺言書がないと嫁の悲劇。

◆ 特別寄与というけれど、同居の嫁の立場。

家制度は、はるか昔になくなりましたが。しかし家の嫁という考え方はまだまだあります。核家族化が進んだとは言え、息子が結婚すればその嫁は家族の一員であり、自分の娘と同じことです。

誰もが確実に、もれなく年老います。果ては体が弱り、人のお世話になります。息子の嫁に世話のならなければならないことも起こります。お世話になった嫁には感謝の気持ちとして、いくばくかの財産を残してやりたいと思うのも当然です。

ところが相続は、嫁に限りなく冷たくできています。

実の親子ではないので相続人ではありません。そのため遺産を受け継ぐ、何の権利も保証されていません。

まだ相続人である夫が存命なら、表立ってではないにしても意見を言えると思います。しかし田舎では、相続に口を挟まない嫁がよい嫁とされたものです。

親と同居するのは、長男の嫁が多いと思います。同居の嫁は遺産分割に関しては、他の相続人である兄弟姉妹に比べると著しく不公平なのです。兄弟姉妹が親に対する責任を放棄しているとしても、相続では確実な権利があります。

その同居している息子の嫁の立場を改善する制度として、特別寄与料の請求権が出来たというわけです。

■老後の相続対策は相続税がかからなくても必要な理由。

◆ 相続に口出しできない親族の胸の内。

今回の改正では、相続人以外の親族を交えて遺産分割協議をすることも起こり得ます。相続人でない息子の嫁が口出す相続という場面は、できれば避けたいところです。

なぜなら相続での遺産分割協議では、理性がおいてきぼりになることも少なくありません。

話が決裂すれば、調停か裁判しかないわけです。しかし世間の常識と家庭裁判所の常識が食い違うものの一つが、この特別寄与と言われています。

相続人や特別寄与料を請求しようとする特別寄与者に対して裁判所は、特別寄与について「財産形成の対価」に過ぎないととらえるのです。

でも普通の感覚では、特別寄与は「被相続人への貢献に対する恩賞」と考えるのが自然な感覚です。家庭裁判所や調停委員会は理詰めですから、人の気持ちはわかりません。この食い違いは今、回の改正によりわずかながらも人間的な判断が下る可能性があります。

世の中はなんでもそうですが、言いたいことを言ってしまってはまとまる話もまとまりません。相続に口出しできない親族の胸の内は察するに余りありますが、できる限りの辛抱も大事ではないかと思います。

なぜ相続権のない配偶者の嫁の気持ちがわかるかということですが、相続権のない疑似養子の立場を経験しています。それゆえ特別寄与料の請求権に疑問を感じているわけです。

■特別受益の持ち戻しが争族の火種になると大炎上。

◆ 家庭裁判所に労苦を算定される腹立たしさ。

特別寄与料などという、権利と言われるような問題にしたくない配偶者の嫁の気持ちは理解できると思います。金が欲しくて介護したとは思われたくないし、そんなつもりでもないでしょう。

金を渡せばそれで文句ないだろうというような、介護の苦労を金額換算しようとする考え方に腹が立つはずです。

相続権がないからこそできる、無欲の介護もあります。金で済むなら最初からヘルパーでも何でも頼めばよいのです。身内の介護には、介護する人の思い入れがあります。

欲得や計算高い気持ちでできる介護でもないのです。そいう意味では特別寄与料という新制度は、介護する人の気持ちを汲んでいるとはいい難い面があります。

家庭裁判所で介護ヘルパーに支払う対価をもとに特別寄与料を算定されたのでは、身内で介護する人にとって全く小ばかにされたような気分になります。できるものなら相続人の責任で介護をしてみればいくばくかは介護の苦労がわかるはず、と言いたくなります。

■相続での争いは譲れない人間の本性をさらけ出す深い理由。

◆ 特別寄与料とは。

特別寄与料は様々な制限や条件があり相続税の2割加算まであります。特別寄与料の請求権の詳細は、下記に詳しく書きました。

定義すれば特別寄与料とは、被相続人の親族のうち相続人でない人(たとえば被相続人の子の配偶者・嫁)が、被相続人を無償で療養看護するなどして、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合に、相続の開始後、相続人に対して寄与度に応じた金銭を請求できる制度です。

法改正前は、子の配偶者などの相続人でない親族は、どれだけ被相続人の介護を献身的に行なったとしても「相続人でない」という理由によって相続財産を取得することができませんでした。

しかしこの結論は不公平であるため、法改正により特別寄与料制度が設けられました。そして相続人でない親族も特別寄与料として、相続財産の一部を取得できるようになりました。

改正の要点は、相続人でない親族(息子の嫁など)が親の介護をした場合、特別寄与料が請求できるようになったということです。

相続人が特別寄与した場合と相続人以外が特別寄与した場合の条件が下記のように異なります。

・特別寄与の条件:相続人が特別寄与した場合

被相続人の事業に関する労務の提供又は「財産上の給付」、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をすること。

・特別寄与料の条件:相続人以外の親族が特別寄与した場合

被相続人の事業に関する労務の提供、被相続人に対する無償の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をすること。

特別寄与料の条件では、相続人以外の親族の場合「財産上の給付」という持ち出しは、要件ではなくなりました。特別寄与料の条件は、貢献の程度が一定程度を越えることでよしとされました。一定程度とはかなり線引きが難しいと思います。

財産上の給付:資金提供、借金の肩代わりなどの経済的支援。

特別寄与料の特別寄与者となり得る親族は、相続人を除く6親等内の血族と3親等内の姻族となります。息子の配偶者はこの中に含まれることになります。

・特別寄与者の要件:

①親族であること(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)

②相続人でないこと

③相続放棄などによって相続権を失った者でないこと

6親等内の血族と言えば、たとえばいとこの孫まで、3親等以内の姻族と言えばひ孫の配偶者、甥姪の配偶者あたりまで広がります。

親族と言えどもそこまで縁が離れた人が、療養看護してくれるとは思えません。しかし特別寄与料のおかげで、争族の範囲も広範囲になりました。

しかしここでも民法では、内縁の妻や愛人は除外されています。法的に血縁がない内縁の妻などに財産を残すには、やはり遺言書が必要だということになります。

・特別寄与料が認められる要件:

①被相続人に対して療養看護などを無償で労務提供をしたこと

②被相続人の財産の維持・増加について特別の寄与をしたこと

息子の嫁が義父の介護をすれば、特別寄与料の要件に該当します。ほとんどのケースでは、療養看護(介護)で財産が減ることはあっても、増加に貢献できることはないと思います。

しかし別の見方をすれば、被相続人の財産の維持・増加とは、嫁が自宅で介護すれば介護施設の利用料はかかりませんから維持に貢献したと考えられます。

介護する立場で言えば、自分の時間と人生を犠牲にして療養看護しているわけですから、通常期待される程度を超える特別な貢献をさらに越える苦労です。

・特別寄与料の請求期限:

特別寄与料には6カ月の消滅時効があります。相続の開始及び相続人を知った時から6か月以内が請求期限となっています。また特別寄与料には1年間の除斥期間があります。期間が過ぎてしまうと請求する権利が自動的に消滅してしまう期間があります。

・特別寄与料の計算方法:

特別寄与料は、相続人と特別寄与者で話し合って合意できればいくらでもかまいません。家庭裁判所に決めてもらう必要はありません。しかし当事者間で合意できなければ、家庭裁判所に特別の寄与に関する処分調停を仰ぐことになります。

たとえば療養看護型の特別寄与料のケースでは、「日当額×療養看護日数×裁量割合」という式で計算されることになります。

家庭裁判所で計算されると、日当額は介護保険制度を参考として要介護度に応じて5,000円~8,000円とされることが多いようです。裁量割合とは、親族にはもともと扶養義務があることから、職業介護者と比べて費用を低額にするために考慮されるものです。

寄与分における計算と同様0.5~0.7の割合で減額されます。裁量割合で加算されるならわかりますが、減額されるのですから、特別寄与者にはバカにされたような気分になります。

・特別寄与を減額査定は納得できない思い。

もともと金目当てで療養看護や介護をしたわけではないだけに、金に換算されると甲斐がないというか、納得できない憤りを感じてしまう特別寄与者もいることでしょう。

これが合意できず弁護士を頼んで話がまとまったとしても、さらに特別寄与料の2割も弁護士費用として成果報酬に支払わなければならないとすれば、何をかいわんやの結末になります。

特別寄与料は、被相続人が亡くなった後、相続人に対して請求するものです。請求を受けた相続人は、法定相続分に応じて特別寄与料の額を負担します。

特別寄与料を請求するためには、自分がどの程度療養看護などをしてきたかなどについて、資料を示しながら具体的に説明する必要があります。

療養看護の具体的な内容を記録しておかなくては、証拠が残りません。しかし療養日記とは言え、それでは、最初から特別寄与料を狙って療養看護をしていたことになりますから、気持ちとしては嫌なものです。

・特別寄与料の相続税は2割加算:

忘れてはならないのは、特別寄与料にも相続税がかかるということです。特別寄与者は相続人ではないので、相続税は2割加算となります。特別寄与料が認められても手放しで喜べない事情は、いくつも待ち受けています。

相続税がかからないレベルの相続なら何もしなくてよいのですが、そうでない場合は相続税の申告が必要になります。

特別寄与料は、相続人に支払ってもらうことになります。相続人にすれば、取り分が減るわけですから面白かろうはずがありません。遺産分割協議以外に特別寄与料の話し合いでひと悶着ということも考えられます。

今回の民法改正は本来ならおさまっていた相続が、相続人以外に拡大し、いきおい争族化する可能性をはらんでいると言えそうです。

■配偶者居住権のデメリット、不仲の子が障害に!

◆ 同居の嫁には特別寄与料より生命保険の受取人指定。

相続人以外の親族と言えば主に嫁(被相続人の兄弟姉妹や甥姪という場合もあります。)です。親の介護を請け負うとなれば、どうしても嫁の背中にのしかかってきます。

自分の配偶者の親ですから、血はつながっていなくても自分の親として介護の責任を感じるのは当然です。

これまでは、他の相続人からは感謝されるどころか、介護費用の使い込みを疑われたりすることすらあります。まったく報われない立場でした。それに報いる制度として特別寄与料が創設されたのですが、相続というものはそもそも公平にはできていません。

特別寄与料は介護した嫁などから、相続人に対して特別寄与料を請求することで制度として機能します。他の相続人にとれば自分の相続財産の分け前が減るわけですから、面白くありません。

結局、欲得の絡み合いになります。立場の弱い嫁では、権利と言えども引かざるをえないか、あるいは言い出しにくい話なのです。

1)同居の嫁に相続権なし。

同居の嫁は息子の配偶者です。被相続人たる親から見れば、いくら世話になっても血がつながっていません。赤の他人ではないですが、法的には姻族という事になります。

よって相続権が元からありません。相続権がないから当然ながら相続人一人当たりの相続税の基礎控除(600万)も生命保険死亡保険金の非課税枠500万もありません。

意図的に手を打たなければ、同居の嫁に相続に関しては権利も特権も一切ありません。

2)同居の嫁を生命保険の受取人に指定。

生命保険金は受取人固有の財産として、判例が確定しています。同居の嫁を生命保険の受取人に指定すれば、誰はばかることなく報いることが可能になります。ただし注意すべきことがいくつかあります。

・生命保険金は受取人固有の財産ですが、相続税の納税義務が発生します。

・納税義務が発生しても相続人ではないので相続税の基礎控除(600万)も死亡保険金控除(500万)も使えません。

生命保険では各社微妙な違いがありますが、受取人は原則として、配偶者および2親等以内の血族(祖父母、父母、兄弟姉妹、子、孫など)とされています。

生命保険には、モラルリスクということがあります。嫁は血族ではなく姻族ですから原則外になります。

よって息子の嫁を死亡保険金の受取人に指定する場合は、個別に保険会社に理由等を確認することになります。ケースによっては調査が入る場合があります。しかし世話になった息子の嫁を保険金の受取人に指定できないということはありません。

3)同居の嫁には遺言書で遺贈。

簡単なようでなかなかできない遺言書です。しかし書き方さえ間違わなければ、もっとも簡単に同居の嫁に財産を遺贈することができます。

遺言書で指定すれば、相続人でなくても財産を渡すことができます。この場合、遺贈と言うことになりますが、他の相続人にも配慮しないと後でもめることにもなります。

世話になった嫁が孤立して困ることがないよう、他の相続人の遺留分を侵害するようなことがなく、また遺贈の意思を言い含めておくことも必要です。

4)同居の嫁を養子縁組して相続人に。

他の相続人がとやかく言わないなら、確実な方法としては嫁を養子にしてしまうことです。そうすれば晴れて相続人となり権利も特権も発生します。

相続税の基礎控除(600万)も死亡保険の非課税枠500万も使えます。明快かつ確実な手法ですが、心情的にひっかかる方もあろうと思います。養子縁組の手続きには証人が2名必要ですが、書類さえ整えば簡単です。

そうは言っても、実際はなかなか遺言書を書かない方が多いです。嫁を養子縁組するのは他の兄弟姉妹の手前、はばかられることがあるのもわかります。

相続権のない嫁にいくばくかの財産分与を考えるなら、生命保険で受取人指定をすることが最も簡易でベストではないかと思います。

ただ言えることは本当に同居の嫁に感謝の気持ちがあるなら、頭がしっかりしているうちに、上記のいずれかの手を打つことをおすすめします。

老いというのは体力だけでなく気力も失われていきます。思い立って何かを形にするには、多大なエネルギーが必要です。いつかやろうと思って先延ばしにしているうちに、思いがけずハードルが高くなってくるものです。

思い立ったが吉日とはよく言ったものです。

◆ 特別寄与料は争族の火種、嫁に報いる生命保険、まとめ。

裁判所は、特別寄与にすこぶる厳しい立場です。改正前までは、息子の嫁が義父や義母を懸命に介護したとしても特別寄与とはなりませんでした。昔から家の嫁という立場は、相続人から相手にされない立場です。

自分の親なのに何の世話もせずほったらかしでも、相続人という立場があれば遺産相続の権利があります。親の世話をしない相続人を責める気もありませんし、そんな時代でもないのでしょう。

しかしそれでも誰かが老親の世話をし、最後は介護に身を尽くし看取らなければなりません。

・相続とは元家族の財産争奪戦。

相続とはわかりやすく言えば、元家族の財産争奪戦なのです。それが家族から親族まで拡大されたのが、今回の特別寄与料の請求権と言えると思います。

特別寄与料の請求権がある親族の範囲は広いですが、通常は親と同居している場合の嫁になると思います。

まれには兄弟や甥や姪の世話になる方もいらっしゃいますが、まずは親族と言ってもこの辺までのことかと思います。

これまでは如何に介護や看病で貢献しようが、相続人でなければ遺産分割で物言うことはできませんでした。それが公式に特別寄与料に関する発言権が、嫁に認められたようなことでしょうか。裏で糸を引いていた相続人の配偶者にも、一部の権利が与えられたわけです。

遺言書があれば、世話になった相続権のない嫁や親族に財産を遺贈しても問題は発生しにくいと思います。遺言書がなければ、泥沼争族の範囲が広がっただけということになりはしまいかと危惧するところです。

くどいようですが、相続はむき出しの本音で自己主張をするところです。日頃の建て前が剥がれ落ち、人間の本性が出てくる場です。仲の良かった兄弟が、相続を境に法事にも呼ばないような争いになる事例も見ています。自分だけは大丈夫などと思わないことです。うちの家族に関しては心配ないなどと思わないことです。

・相続の本質と特別寄与料について。

大人げないことですが、それが人間の本質ではないでしょうか。どうも相続となると悲観的性悪説に傾倒するような気がします。それゆえかどうかわかりませんが、感情論が入る余地のない、権利関係が徹底して明快な生命保険に傾倒するのかもしれません。

相続税がからない層で、わずかばかりの年金と親が住んでいた家だけが財産というケースがあります。兄弟や親戚が責任放棄して世話しない義母(義父)の療養介護を引き受け、最後をみとった家の嫁の苦労があります。その貢献を特別寄与料などとして、金額換算する制度に腹立たしい思いがあります。

また相続権がある兄弟姉妹に、特別寄与料などと言うともめること必至の嫁の苦しい立場があります。親の世話は嫁の仕事、当然と言いたい放題、特別寄与料などと権利の主張をしようものなら、金目当ての強欲な嫁の烙印です。争族になれば、縁切り覚悟で特別寄与料の請求になってしまいそうです。

どうも特別寄与料の請求権とは、嫁の立場ならずともしっくりいかないものを感じています。

相続争いは譲れない、欲得をさらけ出す深い理由。

おひとりさま相続とおふたりさま相続、遺言書が絶対必要な理由。

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