雇用調整助成金の悪循環、コロナショックの病巣。

雇用調整助成金の悪循環、コロナショックの病巣。

新型コロナの蔓延で緊急事態宣言が発令され、人々の行動が大幅に制限されました。その結果、外食産業や観光業界、それにつながる業界は不振を極めています。その救済措置として雇用調整助成金制度が活用されています。

何度かの改善を加え、使いやすくなってきましたが安易な雇用調整助成金の申請は、労働の現場で様々な弊害を生み出すようになってきました。労働者の基本は、ノーワーク・ノウペイ(労働無くして給与無し)です。助成金目当ての休業は現場にひずみを生み、不満の源泉となります。雇用調整助成金の悪循環と弊害を具体的に見ていきます。

◆ 雇用調整助成金とは?

雇用調整助成金は雇用保険の財源を活用し、コロナ禍で売上を落としている企業に対して、休業させた社員の賃金の一部を補填する仕組みです。大幅に売り上げを落としている企業では、実際開店休業状態となり固定費として毎月支払う人件費が大きな負担になります。

これを雇用調整助成金で補助して雇用を維持させようという意義ある制度です。多くの企業が利用し、緊急事態宣言に合わせて再延長されてきました。整理解雇を行わずに、事業継続が可能になるなら、それはそれで大いにメリットがあります。だだ企業の内側にいると雇用調整助成金のもたらす弊害に気づきます。

◆ 勤務時間が総崩れ、助成金目当ての休業シフトが横行。

雇用調整助成金の受給要件を満たす企業がすべて赤字企業というわけではありません。条件に合うような売上減少があれば申請することができます。

助成金が入金すると営業外の雑収入として利益にカウントされます。企業規模にもよりますが、これが結構な額になります。

 

ある会社では累計の受給額が5,000万を越えている例もあります。売上が思うように戻らない企業にとり、営業活動や企業内の通常業務を削減して、社員を休業させた方が手っ取り早く利益を出せることになります。

個人的事情で有給届を提出している社員まで休業扱い、現場が人手不足になっても助成金目当ての休業シフトが優先するようになります。その結果、週に2日しか出勤しない社員や休業と称してテレワークを要求される営業がモチベーションを落としていきます。社員にとって給料さえ支給されれば休業は降って湧いた有給休暇と同じです。その降って湧いた有給が経営にプラスになることはほぼなさそうな気がします。

誰でも経験があると思いますが、長期休暇明けはエンジンがかからないのです。通常の勤務シフトが崩れると緊張感がなくなり、業務に対する対応力が低下します。助成金目当ての休業は目標達成の意欲をそぐばかりか、気が付かない間に能力の低下を招くと言えそうです。

◆ 成果報酬型でもジョブ型でもない日本型企業の勤務習慣。

成果報酬型やジョブ型の企業であれば、社員に対して休業の指示は出せないはずです。自分の労働の成果として賃金が発生するのですから、中途半端な休業補償では納得できないはずです。

ところが日本の企業はほとんどが勤務時間管理で給料が支払われる習慣になっています。営業時間内は業務に携わることが何より重視されます。成果よりまじめに時間いっぱい勤務することが評価につながる仕組みです。

よく働くことの定義として勤務時間の長さがあり、拘束時間に対して給料が払われる日本式があります。業務内容や成果物を評価しない勤務時間評価型と言えるでしょう。中小企業で評価されるのは、いかに長時間会社にいて仕事をしている振りをするかであると言えなくもないのです。日本企業、特に中小企業の生産性の低さは成果管理ではなく時間管理に原因があると言えると思います。

こういった時間管理型の日本企業に雇用調整助成金を当てはめると、休業は社員の士気ややる気をそぎ落とすのですが、経営者は助成金による利益に味をしめてしまいます。休ませるほうが儲かるという逆のジレンマが悪循環を作り出すのですが、経営者がそれに気づくのは難しいかもしれません。

◆ 雇用調整助成金の弊害は4つ。

雇用調整助成金で助成金目当ての休業社員が増加しています。その結果、会社には不労雑収入が、社員には不労所得が発生します。不労収入の悪影響は目に見えないところから浸透します。

真面目に働くという勤労意欲の減衰、有給休暇と休業のアンバランス、社内部門間の休業格差による不満の蓄積といくつもの弊害を生み出しています。ここまで見てきた雇用調整助成金の弊害を4つに整理しました。

弊害その1)社員の士気と勤労意識の低下。

毎日会社に出勤し、期首に立てた目標を達成するために朝早くから夜遅くまで仕事をするという社員の士気が萎えてしまいます。まじめに一生懸命働くという労働者としての基本的なモラルが休業により崩れてしまうことがあります。やる気があっても休業と言われれば反対もできませんし、こっそり仕事をするということもできません。

弊害その2)収入の減少によるモチベーションの低下。

休業させる場合、多くのケースでは給与の減額があり60%から80%となります。仮に100%支給されたとしても残業はなしになるでしょうから、いずれにしても手取り額の減少は避けられません。補助金収入により会社は潤う部分があるかもしれませんが、社員にとれば収入の減少のよってモチベーションが低下することは間違いありません。

弊害その3)職種間・部門間の不公平感による不協和音。

全社、全部門を公平に休業させることはできません。例えば総務部門のような間接部門は、休業しながら給料をもらえますが、製造部門は土曜出勤してまで間に合わせているというようなことが起こります。その結果、社内的な不公平感と不協和音が広がります。休業は社員にとり特別有給のようなものですから、一部の社員に偏ると納得できないのです。

弊害その4)不労雑所得により経営判断を招く。

雇用調整助成金は、経営状態に関係なく会社として利益が出ていても条件に適合していれば申請することで支給されます。場合によっては社員を休ませている方が利益が出るという状態になります。本来経営は知恵をしぼり必死で売上を作ることで利益を出すことが求められます。売上を伸ばさなくても助成金で利益が出るという状態は、経営意欲を阻害する麻薬になる可能性もあります。

営業社員にテレワークをさせ雇用調整助成金を受給する例も見かけます。雇用調整助成金を申請するには、一定数の休業が条件になりますから、各部門に休業数を割り当てるようなことも必要になる場合があります。

強引に休業を割り振ると目標達成に取り組む意欲を失い、社員のやる気が骨抜きになる可能性があります。よく考えなければいけないことは、手にした補助金より、たるんでしまった社員の士気低下は、被害甚大と言えるのではないかと言うことです。

◆ 雇用調整助成金の悪循環で生産性の低さが露呈、まとめ。

保険代理店や保険営業に持続化給付金を請求する権利があるかどうかは、過去の記事に書きました。

保険営業の持続化給付金請求は違法か!?

保険営業は成果報酬型と言ってほぼ間違いないところです。従って雇用調整助成金を申請している保険会社はないと思います。一部保険代理店は雇用調整助成金を利用しているところもありそうですが、それに依存すると保険営業の販売力の減退がおこり食いつなげなくなりそうです。

企業のピンチを救う手段として雇用調整助成金を活用するのは十分

意味がありますが、利益が出ている企業、財務体質が良好な企業が雇用調整助成金に色気を出すと弊害が出るばかりか、長期にわたりモチベーションの低下と士気をそぐことになりかねません。雇用調整助成金は受給すればするほど抜けられなくなる麻薬のような悪循環がありますから、コロナショックの病巣の一つとして方々ご用心をと申し上げておきます。

補足ですが、皮肉なことに雇用調整助成金を受給するための強引な休業により、図らずも無駄な仕事、時間つぶしの仕事が大半であることがあぶり出され、生産性の悪さが露呈した形になった会社が見受けられます。

中小企業に限らず言えることですが、利益を上げるために必要なことをどれだけ集約的に行うかが生産性向上のカギになります。そのために利益を上げるために役に立たないことをどれだけ止めるか、

それを実行する勇気と意識を持てるかということが大事です。人間はほとんどの仕事を全力の振りをして6割以下の力でこなしています。他に人がいれば仕事をシェアし時間いっぱいかけて分け合います。それで生産性が上がるはずがありません。雇用調整助成金の想定外のメリットとして、企業の生産性の低さが露呈したと言えるのではないかと思います。

後継者不在の事業承継の行方、清算か廃業か。

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