
事業承継の相談を受けていると、不思議な場面に出会うことがあります。
「後継者がいないんです。」
そうおっしゃる経営者の話を聞いていると、息子さんがいる、娘さんもいる、
場合によってはその会社で働いていることもあります。
それでも経営者は「後継者がいない」と言います。
昔なら息子がいれば、事業承継は半分終わったようなものでした。
しかし今は違います。
親族がいることと、後継者がいることは別問題になっています。
事業承継の現場では、「後継者不在」よりも「親族はいるが後継者がいない」
という問題の方が深刻なのかもしれません。
■ 事業承継のまさかと後継者の力量不足が会社を揺るがすリスク。
◆ 親族承継が当たり前だった時代。

かつて中小企業では、長男が家業を継ぐことが自然な流れでした。
製造業でも建設業でも小売業でも同じです。
学校を卒業すれば会社へ入り、親の背中を見ながら仕事を覚え、
いずれ社長になるという道筋がありました。
経営者にとっても、会社は自分の財産であると同時に家業でもありました。
そのため、自分が引退した後は子どもが継ぐものだと考えていたのです。
ところが時代は大きく変わりました。
◆ 子どもが親と同じ人生を選ばなくなった。

現在では大学進学や就職によって、地元を離れることが珍しくありません。
大企業や公務員・専門職など、多くの選択肢があります。
親の会社を継ぐことだけが人生ではなくなりました。
むしろ、「会社を継ぐより自分の好きな仕事をしたい」
と考える方が自然になっています。
これは親不孝でも責任感不足でもありません。
価値観が変わったということです。
親の世代が会社を人生そのものと考えていたのに対し、
子どもの世代は人生の選択肢のひとつとして会社を見るようになったのです。
その結果、親の会社を自分が継ぐことが必然ではなくなったのです。
◆ 社長という仕事は思った以上に重い。

会社員から見れば社長は自由に見えるかもしれません。
しかし実際には逆です。
社長の責任は、社員の生活を支え、資金繰りを考え、取引先との関係を維持し、
時には厳しい決断もしなければなりません。
業績が悪化しても最後の責任は社長が負います。
成功して当たり前、失敗すれば責任を問われる立場です。
そうした現実を身近で見て育った子どもほど、
「自分には荷が重い」と感じることがあります。
親としては会社を残したいし、我が子に継いで欲しいと思っています。
しかし子どもは穏やかな人生を望んでいる。
ここに親族承継の難しさがあります。
◆ 能力があっても継がない。

後継者問題というと能力不足が語られがちです。
しかし実際には能力があっても継がないケースがあります。
営業力もある、人望もある、社員からの信頼も厚い。
それでも本人が承継を望まないことがあります。
経営者から見れば理解し難いかもしれません。
しかし本人にすれば、自分の人生を自分で選びたいだけなのです。
事業承継は会社の問題であると同時に、人生の選択の問題でもあります。
能力があっても継ぐ気がないとは、親としては残念ですが、
今の時代では強制することもできません。
■ 経営者の運が会社の運命を決め、社員とその家族の運命を左右する。
◆ 親の不安が消えない。

さらに難しいケースがあります。
子どもに継ぐ意思があるのに、親が任せられない場合です。
経営者から見れば後継者はいつまでも頼りなく見えます。
それも無理はありません。
数十年経営してきた経験と比べれば、誰でも未熟に見えるからです。
しかしその考え方のままでは事業承継は進みません。
60歳の社長から見て40歳の後継者は未熟です。
それは、70歳になっても同じ、80歳になっても同じです。
つまり安心できる日は永遠に来ません。
子に任せられなければ、事業承継は行き詰るよりありません。
◆ 完璧な後継者は存在しない。

創業経営者も最初から優秀だったわけではありません。
失敗しながら学び、経験を積み重ねて経営者になったはずです。
ところが後継者には失敗を許さなくなります。
失敗させないように守ろうとします。
しかし失敗できない後継者は育ちません。
事業承継とは会社を引き継ぐことだけではありません。
経験する機会を引き継ぐことでもあります。
失敗を糧として、経営者は一人前に成長していきます。
ここを大きな心で受け止めることができなければ、
経営権の委譲などできるはずがありません。
◆ 親族外承継という考え方。

親族に適任者がいない場合は、無理に親族承継へこだわる必要はありません。
長年会社を支えてきた幹部社員がいるかもしれません。
役員や従業員の中に経営者としての資質を持った人がいる場合もあります。
近年は親族外承継も珍しいものではなくなっています。
会社を残すことを優先するなら、有力な選択肢のひとつです。
ただ親族以外承継の場合、自社株の承継が壁になることがあります。
親族内承継なら相続や贈与を利用できますが、
親族外承継では原則として「売買」になります。
業績が良い会社であれば、巨額の購入資金が必要になります。
かといって雇われ社長では、経営が安定しない可能性があります。
◆ M&Aも選択肢のひとつ。

どうしても後継者が見つからない場合は、M&Aという方法もあります。
従業員の雇用や取引先との関係を維持できる可能性があります。
ただし、すべての会社が希望通り売却できるわけではありません。
業績や事業内容によっては買い手が見つからないこともあります。
そのためM&Aは最後に考えるものではなく、
早い段階から選択肢として検討しておくことが重要です。
■ アドバイスと口出しの違いがわからない経営者|事業承継を壊す引退社長の本音。
◆ 事業承継は突然できない。
事業承継で最も多い失敗は準備不足です。
後継者育成には長い時間が必要です。
会社の数字を理解することだけではなく、取引先との信頼関係を築くことや
社員をまとめること、経営判断を経験することが必要です。
どれも数年では身につきません。
本来であれば10年単位で考えるべきテーマです。
◆ 後継者不足の本質。

後継者不足と言われますが、本当は後継者そのものが
存在しないわけではありません。
問題は、育成する時間が足りないことです。
そして、任せる覚悟ができていないことです。
後継者不足という言葉の裏には、親族承継が難しくなった時代の変化があります。
だからこそ、親族にこだわり過ぎず、広い視野で人材を探し、
早い段階から育成を始めることが重要になります。
◆ 親族承継が難しくなった本当の理由まとめ。

昔は息子がいれば事業承継できる時代でした。
しかし今は違います。子どもには子どもの人生観があり、
多くの選択肢があります。
また親にも不安があります。価値観も働き方も大きく変わりました。
その結果、親族がいても後継者にならないケースが増えています。
事業承継の問題は、単なる後継者不足ではありません。
親族承継そのものが難しくなったことも要因のひとつです。
だからこそ、後継者探しは早く始めること、
そして親族以外も含めて幅広く考えることが重要なのです。
■事業承継が失敗する原因を体系的に解説したページ
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