雇用調整助成金のデメリットは、コロナ特例でわかった甘い汁。
雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労使間の協定に基づき労働者に対して一時的に雇用調整(休業)、教育訓練又は出向を行い、労働者の雇用の維持を図った場合に、休業手当、賃金等の一部が助成されるものです。
そして新型コロナウイルス感染症の影響による雇用調整助成金の特例は、2023年3月末で終了しています。その後雇用調整助成金は、見直しが行われリスキリング(学び直し)に重点をおいた制度にシフトしています。
コロナ特例による雇用調整助成金は、多くの企業が申請し数々の不正受給が発覚し、多くのデメリットもありました。製造メーカーの現場で見た、雇用調整給付金受給に関する裏事情と、意外に大きい弊害についてまとめました。
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◆ 雇用調整助成金の再延長、甘い汁はモチベーション最悪。
雇用調整助成金の特例措置として、新型コロナウイルス感染症に対する申請対象期間が延長され、令和4年9月末までとなったことがありました。給与の締めの期間が1日でも含まれれば、申請することができます。
現場の計画や事情を無視して急遽、期限までの範囲で所定の割合に達する日数まで社員を休業させるよう経営陣からお達しが出るという、繰り返しのパターンが出現します。
当然、現場は混乱します。単純に有給が増えるのと同じですから、一般社員は不服があろうはずがありません。ところが幹部社員は、休業させる人選や戦力ダウンの中からやりくりを組み直さなくてはなりませんから大変です。しかし問題はそれだけにとどまらないのです。
会社はわずかばかりの雇用調整助成金で、社員に予定外の休業をさせます。そうすると社員も人間ですから易きに流れ、仕事を継続するための緊張の糸がゆるむのです。一度ゆるんだ糸を締め直すのは、何倍もの骨がいります。
◆ 度重なる雇用調整助成金の再延長と不正受給のリスク。
雇用調整助成金のコロナ特例はコロナ禍で売上を落として、経営が苦しくなり、社員の雇用を維持することが困難になった企業に対する補助金です。
売上減少で業務量が減少した社員を、解雇ではなく休業として一定額の給料を支払い、復活の日まで雇用を維持するためには資金が必要です。その資金を補助する仕組みが、雇用調整助成金です。
コロナ禍は、簡単に終息せず何度も拡大したため、雇用調整助成金も何度も延長という措置がとられました。
雇用調整助成金はそもそも、休業した日に会社が従業員に支払う休業手当の補てんを目的とした制度です。あくまでも休業した日が対象になります。
たとえば、会社の休日(公休日)や年次有給休暇、個人の事情で欠勤なども休業には違いないですが、助成金の申請対象でありません。また従業員本人が新型コロナウイルスに感染し、休んでいる期間の給与も休業手当も支払う義務はありません。ノーワークノウペイの原則があります。
・不正受給のリスク。
この休業の区分をあいまいにしたり、適当にごまかしたりして申請すると不正受給となります。有給休暇や欠勤は休業とはみなされず、労働者の自主的な出社も休業とはみなされません。したがって、故意か間違いかは別にして、上記のようなケースで雇用調整助成金を受けることは、不正受給となります。
雇用調整給付金のデメリットの一つとして、安易な雇用調整助成金の申請による不正受給はつまらない結果を招きます。受給した助成金の返還だけでなく年5%の延滞金と20%の上乗せ返還があります。さらには5年間雇用保険を財源とした助成金の受給ができなくなるという、痛いペナルティが待っています。
老婆心までに申し上げておくと、よく似ていますが「雇用継続給付金」とは別物です。雇用継続給付とは、高年齢雇用継続給付・育児休業給付・介護休業給付が支給されます。
◆ 雇用調整助成金は資金繰りの麻薬。
社員数が多いと雇用調整助成金を繰り返し受給すれば、それなりの金額が営業外収益として残ります。本業の赤字を少しでも埋めることができるので、その弊害を考えずに雇用調整助成金の受給に走ってしまう傾向があります。
経営とは、ある面ではキャッシュをショートしないように回していくことです。そういう意味から言えば、経営者が雇用調整助成金のキャッシュに目がくらむことは、致し方がないのかもしれません。
ただ、経営に余裕のある企業までが無理に休業させて、雇用調整助成金を得ようとするのは弊害が大きいような気がします。そのときのメリットと後のデメリットを考えずに受給申請に走ってしまう理由は、雇用調整助成金が一種の麻薬のような、安易な快楽なのかもしれません。
◆ 雇用調整助成金の弊害と社員のモチベーション維持。
雇用調整助成金の弊害と呼べるものに、社員のモチベーションの低下があります。売上が減少すれば、現場の仕事量は減ると考えるのは、ある一面からすれば早計なのです。
人は仕事をするとき、いつも100%で働いているわけではありません。忙しい日もあれば、余裕のある日もあります。どこの職場でも業務量には波があり繁忙期があります。
採用するときは、繁忙期に対応できる人員を揃えようとします。そうすれば必然的に閑散期の業務密度は低下してくることになります。ところが職場というのは売上が落ちたから、一律に業務量が低下するとは限らないのです。どこの職場でもやりくりということがあり、手が空いたときにやることがあります。
たとえば5Sと言われる整理整頓、原料の発注、繁忙期に向けての在庫の確保など雑多な業務があります。決して手持無沙汰に遊んでいるわけではありません。メリハリをつけながら、これまでできていない課題を次から次へ処理しなくてはならないことがあります。
◆ 雇用調整助成金の悪循環、まとめ。
本当であれば、休んでいる場合ではなく売上が落ちているときこそやるべきことがあるはずです。雇用調整助成金目当ての休業は、社員の余裕率を削ることになります。
しかし一番の問題点は、職場に対する緊張感と責任感の糸がたるんでしまうことにあります。
休業という時間的余裕は、社員にとり棚ぼたの特別有給という甘い汁になります。売上が落ち込んで経営が厳しいときに、ぬるま湯と言ってもよいかもしれません。厳しさが欠けると、社員のモチベーション低下につながります。有給休暇ではない休業の甘い汁は、社員をダメにすると申し上げたいところです。
わずかばかリの雇用調整助成金のために、社員の意欲を削ぐようなことになりかねないことが、デメリットというか懸念事項として残ります。
経営は社員の力をいかに引き出すかです。
・コロナでも休業できない保険営業。
これが保険営業なら、休業と言われても休んでいることなどできるはずがありません。なぜなら自分で成果が出なければ地位が維持できないばかりか、家族を食べさせていけないからです。
本当に、売上低下が厳しくて社員の雇用が維持できないような企業には、ギリギリのところで効果があるかもしれません。でも財務的に余裕のある企業が雇用調整助成金を稼ぐために社員を休業させるのは、職場間の不公平による不満を生むだけでなく、モチベーションに悪影響を与えることを知るべきだと思います。
2024年4月からは、在職者によるリスキリングに重点をおき、休業よりも教育訓練による雇用調整を選択しやすくするよう直されました。
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