優良申告法人の税務調査のウラ話、現場のリアルを体験から。
世間にはあまり知られていないと思いますが、優良申告法人の通称は「優良法人」略して「優法」と呼ぶこともあります。優良申告法人は所轄の税務署より過去の納税実績、税務調査の結果に基づき判定されます。希望してもなれるものではないのです。
優良申告法人も税務調査を受けます。しかし以前までは一般の税務調査のように不正を暴くような対応ではなく、実地調査はおざなりの挨拶程度になっていました。税務調査で多少の問題があっても、申告は適正であるとして是認されてきました。
優良申告法人の税務調査は、貴重かつ希少な体験です。そこに居ないと税務署の本音とウラ話がわかりません。現場のリアルを体験からまとめて報告します。
クリックできる目次
◆ 優良申告法人に実地調査の本音。
ところが平成27年から国税庁の方針が変わったようです。優良申告法人でも実地調査に一日半程度割いて、統括官と上席が総勘定元帳を調べるようになりました。
しかしその5年後の税務調査では、実地の調査ではなく個別指導という名目で、アンケートのようなものを書いて税務署に提出してそれで終わりでした。その後4年間、税務調査はありませんので、一回の税務調査で9年間は優良申告法人という看板を掲げられるわけです。
果たして10年目の税務調査がどの程度踏み込んだ調査になるかはわかりません。たぶん統括官が来て実地調査となると思います。優良申告法人を何十年も継続していると、過去の税務調査で実地調査が行われたという経験がないのでどぎまぎします。
推測になりますが、これまでの感じでは実地調査になっても、決定的なところには踏み込まないという感じがします。
優良申告法人といえども、売り上げ規模が大きくなると様々な問題が起こってきてきます。経理処理上の見解の相違は、それこそいくらでもあります。たたけばホコリが出るのは、優良申告法人でも普通法人でも同じことなのです。
しかし、税務調査ではホコリが出そうなところはたたかないというか、見解の相違は大目に見るような暗黙の習慣があります。
◆ そもそも優良申告法人の資格は?
優良申告法人として税務署から表敬状を受け取ることができるのは、全法人のわずかに1%程度と言われており極めて貴重な資格なのです。
表敬となると所轄の税務署長が来社され、表敬状の授与と記念撮影が行われます。名誉なこととして、紅白の幕を張り巡らして撮影する会社もあるくらいです。
優良申告法人で検索をかけると、ほとんどが表敬を受けた会社の自慢サイトばかりになります。それほど誇らしい表敬というわけです。
優良申告法人を定義すると「申告納税制度の趣旨に即した適正な申告と納税を継続し他の納税者の模範としてふさわしいと認められる法人」ということになります。
・優良申告法人の厳しい条件。
一番難しい条件は、過去3年間の納税額が平均以上ということがあります。要するに利益が出なかったりもうけに波があったりする会社は、そもそも選定の対象外なのです。優良申告法人を15年継続したとすれば、その間に一定の利益を毎期維持し、納税に貢献していることが必須の条件になります。
その他には、現金残高は合っているか、売上除外はないか、経費は公私混同がなく妥当か、架空の経費を計上していないか、消費税、印紙税など付帯税が正しく計算されているか等が問われます
もちろん各年度の申告漏れにも許容範囲がありますから、よほど精度の高い経理処理をしていないとクリアできません。会社でとっている新聞を自宅に配達させていても公私混同です。もちろん所得税の滞納があれば命取りになります。
申告・納税は税務行政に協力する立場ですから、e-Taxの利用は必須です。
税の啓蒙活動への積極的な取り組みとして、納税協会の役員を引き受け、会合には皆出席であることも優良申告法人の評価ポイントになると言われています。いかにつまらない福祉制度委員会でも、出席しておくことがよろしいわけです。
◆ 税務調査で優良申告法人が優遇されるわけ。
優良申告法人に選定される会社は、とても少ないので名誉なことだと書きました。
しかし経営者というのは、本音で言えば社会的な名誉よりも利益や節税を好みます。その上で優良申告法人を維持することに腐心する理由は、それだけの経営上の見返りがあるからに他なりません。
平均以上に多く納税してもコーヒー一杯出てくるわけではないし、お中元もお歳暮もこない不毛のコストが税金です。また税務署が仕事を紹介してくれるわけでもありません。それでも税務署長が来社すれば特別扱いをし、優良申告法人を守っていこうとする裏には、税務調査での配慮への期待があるからなのです。
優良申告法人の税務調査には、一般の調査とは異なり統括官(統括国税調査官)が来ます。調査対象を選定する権限や最終的な判断は、統括官に任せられます。
・優良申告法人ではOB税理士登場。
調査を受ける方の優良申告法人では、税務調査に備えて別にOB税理士をお願いします。OB税理士とは、税務署の元署長さんで定年退職後、税理士を開業されている方です。
顧問契約している日常の会計処理や決算をまとめる税理士は、税務調査には出てきません(そうでない場合もあります)。以前は元税務署長のOB税理士が、申告書にサインして提出していました。
このクラスの税理士になれば、統括官でも遠慮が出るのか、落としどころを探すようになります。骨太のOB税理士であれば、「もうその辺でやめといたらどうや。」などと言う場面にも出くわしたこともあります。
やはり納税額が多いからこそ、優良申告法人でいられるわけです。また国税局から推薦を受けたOB税理士と契約していると、課税庁にきちんと意見を言うことができます。
それだけに調査する統括官の方も、後々のことを考えて配慮するのではないかと思います。別のOB税理士の話ですと一般の法人であれば、当然に是正する程度の経理ミスについても、優良申告法人の場合は見送ることがあるそうです。やはり統括官の立場では、税務署が選定した優良申告法人を尊重する意識があるのかもしれません。
◆ 優良申告法人の税務調査、まとめ。
優良申告法人制度の指針の見直しが行われて、数年ほど経過しています。そのため前回の調査は個別指導で済んだ優良申告法人でも、次回の調査では実地調査になると思います。ここは未知数の部分があり、実地調査でどこまで踏み込んでくるかという不安が残ります。
昔はおおらかな時代で、税務署の幹部連中にビール券を配ったり、特別なゴルフボールをプレゼントしたりして人間関係を築いていたようなこともありました。税務署の幹部は転勤がありますから、顔ぶれがしょっちゅう変わります。その都度、納税協会の会合やら意見交換会で顔つなぎをして一杯酌み交わしておくことが大事な点でした。
一時期、コロナ禍でそれはできませんでしたが、また復活しています。優良申告法人といえども、税務署長や統括官、総務課長と顔つなぎができていないと、表敬が維持できるかどうか気がかりになります。
優良申告法人の本音を言えば、税務調査で手加減を期待するから税の啓蒙活動への積極的な取り組みや納税協会の役員を引き受けるのです。
もしそのメリットが期待できなくなれば納税協会は、そもそも成り立たないでしょう。またその結果として、税務行政もぎすぎすしたものになると思います。優良申告法人制度は税務署にとっても、優良申告法人にとってもそれなりに意味があると言えるのではないかと思います。
「優良申告法人の税務調査のウラ話、現場のリアルを体験から。」への1件のフィードバック