生命保険会社が残高証明書を出せない理由。
本サイトも開設してから10年近くになります。その初期のころの記事に補足が必要になりましたので、もう少し踏み込んだ解説を試みました。
法人契約の生命保険を題材に記事を書いていますから、保険料と解約返戻金の経理処理や期末の決算処理についても関係が出てきます。バレンタインショックの国税庁の通達以来、保険料を全額損金で処理できる保険が大幅に制限されました。
また複雑な保険積立金を求められる保険商品が増えてきました。正しく経理処理ができているか確認するため、保険会社に残高証明書を求めるケースも増えてきたものと思います。
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◆ 生命保険会社が出せる証明書は?
法人に関連して、生命保険会社が出せる証明書は「既払込保険料証明書」「保険積立金証明書」や「解約返戻金証明書」などがあります。定期保険の前払保険料や終身保険などの資産性の高い生命保険の保険料は、保険積立金として経理処理されなければなりません。決算時には、保険積立金の金額を確認するために保険会社に「保険積立金証明書」の発行を依頼することがあります。
「解約返戻金証明書」も保険会社に依頼すれば発行してくれますが、法人の決算では出番がありません。解約返戻金証明書は今解約すればいくら戻ってくるかを証明する書類です。破産して債務整理などをするときには必要になりますが、「保険積立金証明書」と異なり一般的には必要としない書類です。保険積立金と解約返戻金はもともと別のものですから、金額が一致することはありません。
◆ 生命保険会社の残高証明書の誤解。
「“生命保険会社” “残高証明書”」で完全一致検索すればわかりますが、生命保険会社は残高証明書という言葉は使いません。残高という語彙が何を指しているか不明なのです。
生命保険では残高という概念は適切ではなく、保険積立金証明書(保険積立金残高)もしくは解約返戻金証明書(解約返戻金残高)を区別しないと意味が通らないのです。
生命保険会社が発行する保険積立金証明書は、記載された残高があるわけではありません。決算処理で保険積立金残高を証明する資料となります。銀行が発行する残高証明書とは、そもそも意味合いが違います。
サポート窓口に確認しましたが、M生命では残高証明書と言えば、解約返戻金証明書と既払込保険料証明書しか発行できないと回答がありました。保険積立金証明書は、対応していないそうです。本来保険積立金は、契約者側の責任で行うものですから言い分に一理あります。
◆ 保険料は生命保険会社の収益「保険料等収入」。
生命保険会社の収益構造からすれば、保険料等収入とは契約者が支払った保険料を保険会社の売上とみなしているということです。その保険料全額が保険会社の収益です。保険料は預かると言いますが、預金とは異なり契約応当日に保険料に充当されれば、保険料は保険会社の収益とみなされます。
保険料を収納された時点では預かり金ですが、保険料に充当されれば、預り金ではなくなり保険会社の売上であり収益というわけです。そのため保険会社では「保険料等収入」と言う言葉で売上高を表現しています。
保険会社は保険料を積み立てて運用し、事業継続費用(保険金などの支払、保険事業運営費等)を差し引いたものが基礎利益と呼ばれます。基礎利益は一般企業の営業利益に近いものと考えればわかりやすいと思います。
保険料は預かると言いますが、銀行の預金のように返す必要がない収益とみなされます。保険会社は、保険料を収益として計上し経営を維持しています。別の見方で保険料が預り金だとすれば返金できるはずですが、取り付け騒ぎがあっても保険料は返せません。保険会社は最初から破綻していると言えなくもありません。
ただ保険会社にも理屈があり、収益として受け取った保険料の総額と運用で得た収益が保険金支払総額と事業費総額の合計と釣り合うように、収支相等の原則があります。
支払保険料が保険料に充当された時点で、保険料は預り金ではなく、保険会社の収益となると言いました。それゆえ預かっていないのですから、残高はないことになります。ただ契約で約束した保険金支払いと解約返戻金は保証されるという仕組みになっています。
◆ 生命保険会社の残高証明書、まとめ。
ある会社の総務部長は銀行から来られて、経理を兼務されていました。簿記の資格はお持ちでしたが、決算処理などはよく理解されていませんでした。顧問税理士の指導で、決算書を作成されていました。税理士から保険積立金があるなら、保険会社から残高証明をもらってくださいと指示がありました。
そういうわけで、銀行上がりの総務部長は残高証明が保険積立金明細書であることが理解できていなかったため、銀行の感覚で残高証明を考えてしまったということです。保険会社が出せるのは払込保険料総額、保険積立金(資産計上額)、解約返戻金などの明細です。決算に必要な書類は保険積立金証明書です。
ここにきて国税通達が、生命保険の経理処理をとても複雑な仕組みに変えてしまいました。保険の契約時期により経理処理の違いはよくありますが、同じ保険でも経過年数により経理処理が変遷するというややこしさです。生命保険は一度契約すれば、毎年同じように保険料支払いが発生して、同じように経理処理をするものと考えていると大きな間違いにつながります。
そういう意味では、生命保険会社も「契約内容のお知らせ」などに経時的な経理処理の案内を行い、定期的に保険積立金明細書を郵送するぐらいの顧客サービスがあってもよさそうなものです。
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