
令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。
これまで特段の事情や売却の予定などがなければ、
相続で不動産を引き継いだとしても、登記することはあまりありませんでした。
とくに田舎の家屋敷や農地や山林などは、後継者が都会に出て
サラリーマンをしていますから、相続が発生しても登記する暇もなければ
費用をかけるゆとりもないといったところが本当です。
■相続登記に必要な書類と手順を、実際にやった素人がわかりやすく。
◆ 所有者不明土地の増加が深刻。

所有者不明土地(※)が社会問題化したため、
相続登記が義務化されることが決定しています。
所有者不明土地は増加し続け、410万haとも言われています。
九州一個分より大きな土地が誰のものかわからないという、
とんでもないことになっているのです。
原因は相続での不登記が66.7%、
住所変更の不登記が32.4%で
合わせて99.1%にも及びます。
(※所有者不明土地とは、不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず
又は判明しても連絡がつかない土地のことです。)
民主的な日本では、勝手に国家が個人の所有する不動産を
供出させたり、転用するようなことはできないようになっています。
日本の法制度では私有財産権が強く保護されています。
憲法の基本的人権によって、たとえ所有者不明の土地でも、
それを勝手に国のものにすることは現在の法律を変えない限り許されないのです。
その結果、相続人は望まない土地、利用価値の低い土地が
相続の重荷になっています。
一方では、今後の国家の経済的損失が6兆円に及ぶと試算されています。
そこまで理解していながら、相続登記が義務化されても
素直に登記する気にならないというのは、どこに問題があるのでしょうか。
◆ 相続登記が義務化されると。

相続登記が義務化されると、何がどう変わるのでしょうか。
法務省民事局が作成した「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」を簡潔にまとめてみました。
所有者不明土地の主な原因は、相続登記がなされていないことにあります。
現行は人単位で財産権が保護されていますので、
法律を変えない限り所有者不明土地の処理をすすめることができません。
これは公共事業の実施や民間取引を妨げるなど、多数の問題の原因となっています。そのため大きくは下記の3点を制度化するというものです。
1)相続登記の申請を義務化。
相続により不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内の
相続登記の申請を義務化する。過料10万円以内の罰則。
2)住所変更登記の申請を義務化。
転居等に伴う住所等の変更登記を2年以内に申請することを義務化。簡便な手続
きで住所等の変更が登記に反映されるシステムを構築。過料5万円以内の罰則。
3)土地所有権を国庫に帰属させる制度の創設。
相続又は遺贈により取得した土地を手放して国庫に帰属させることを可能にする
制度。審査手数料と10年分の土地管理費用を徴収。
参考:所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し
これらの施策は、2024年4月1日から施行されています。
その他に、所有者不明土地・建物の管理制度の創設/共有物の利用の円滑化を図
る仕組みの整備/長期間遺産分割未了に対する遺産分割の見直し/隣地等の利用・
管理の円滑化などが検討されています。
■相続登記関連の最新情報はこちら。
→相続登記義務化と関連制度変更をわかりやすく整理。
◆ 納得できない相続放棄と管理義務。

被相続人には借金があり遺産がマイナスの場合、相続放棄することができます。
その場合でも売却できない不動産に関しては、
相続人に管理義務が引き継がれます。
相続放棄したからと言って、すべての責任を免れることにはならないという
民法の決まりになっています。
民法には、相続放棄後も、現に占有している財産については、
一定の保存義務が残る場合があります。
この規定の存在により、相続放棄をしても相続人であった者は
相続財産清算人が選任されるまでは
相続財産を管理しなければいけなくなるのです。
相続放棄により法的な固定資産税の納税義務は承継しません。
(実際には管理や対応を求められるケースがあります。)
しかし田舎の家や田畑や山林は、売ろうにも容易に買い手がつきません。
仮に相続放棄して、所有者がいなくなった不動産はどうなるのでしょうか。
不良資産として価値のない不動産を相続放棄により
手放したら身軽になりバンザイとなるのでしょうか。
世の中それほど甘くできていません。
相続人全員(第3順位の兄弟まで含めて)が相続放棄すると
相続人不存在となります。
相続人不存在となれば、価値のない不動産は誰が管理するのでしょうか。
手入れをしない建物は老朽化し、瓦がはがれ台風のたびに破損が進みます。
庭木は生い茂り雑草が繁茂し、手が付けられなくなります。
耕作放棄田もゴミ捨て場となり、廃棄された洗濯機や家具に葛(くず)が巻
きついてきます。虫が発生し近隣に大変な迷惑をかけてしまいます。
相続人不存在の場合には、建前上の仕組みとして相続財産は法人化して
相続財産清算人が選任されます。
選任された相続財産清算人は相続財産の清算等を行い、
残った相続財産を国庫に引き継ぎます。でもそうはうまく問屋が卸しません。
この仕組みは誰かが裁判所と相続財産精算人にお金を払って、
相続財産の管理をお願いしなくては機能しません。
費用が結構かかりますから、是が非でも借金を取
り返したい債権者ぐらいしか利用しない仕組みと言えそうです。
残念ながら、実情からかけ離れた仕組みと言えるかもしれません。
相続財産を相続したくないから相続放棄をしたのに、
相続財産清算人に報酬を支払うことは
そもそも意味がないと感じる相続人もいるのではないでしょうか。
結局、相続財産の管理責任が残ってしまうため、
相続放棄も不良不動産に対して万能ではないということです。
・田舎の耕作放棄田が問題化
放棄田にはできないものの、耕作しなくなった農地の管理も大変です。
何も作物を作っていなくても、年数回の除草や農業委員会や
農協との付き合いも手間がかかります。
田畑からの収入は全くないのに、固定資産税や
除草費用の負担がのしかかってきます。
農地中間管理機構なる組織が設立され、遊休農地の貸借あっせんにより
有効活用がすすめられていますが、
それは使い勝手の良い大きな農地に限ります。
田舎のいびつな形の段差のある農地などは、大型機械が使えないなど非効率で、
誰も耕作したいとは思いませんから借り手はつきません。
・価値のない土地は国庫もいらない。
この上さらに困ったことがあります。最後に国庫に引き継ぐと書きましたが、
国は相続財産でも価値のない不動産は、引き取ってくれないそうです。
何を馬鹿なことをとお思いでしょうが、
あなたが不要なものは国もいらないのです。
もともと換金できるような不動産なら相続放棄しませんから、
そもそも問題の根本的解決にはなっていないのです。
相続放棄のときに残る田舎の不動産は、
価値がないから売ろうにも売れないのです。
むろん誰も欲しがらないから、国にとっても不要な土地ほど
引き取り条件が厳しい不動産になります。
せっかく相続放棄しても売れない不動産の管理責任は、
いつまでも続くことになります。
不良不動産は相続して売却する以外に、
未来永劫にわたり縁が切れないということになりそうです。
相続財産清算人に報酬を支払うより、自分で管理して草刈りでもした方
がお安く上がるというものです。
こうなると相続財産に多額の負債がある場合は、素直に相
続放棄をして管理義務のみを負い続けるのが良いのかもしれません。
相続財産に負債がないならフツーに相続して、
地道に売却先を探す方が良いのかもしれません。
将来的に売れるか売れないかは時の運、
相続すれば自分の財産ですから、いつでも処分が可能です。
どうしても売れないときは引退後に田舎に引っ込んで、
家庭菜園でも趣味にすることです。
◆ 相続登記を義務化したところで、田舎相続人の本音。

相続登記が義務化されても、敢えて登記したくないというのが
田舎の相続人の本音でしょう。
家制度が崩壊し家族がバラバラになり、
年末年始や連休にも子や孫にも会えない時代です。
都市に人口が集中し、地方都市は老人ばかりになり
シルバーマークの車が信号で並んでいます。
農地はあちこちで荒廃し、人口減のため大型店はどんどん撤退していきます。
そんな田舎相続人は、都会に住んで田舎の年老いた両親を顧みることもできず、
日々の生活に追われています。
田舎相続人にとって相続登記の義務化とは、
眠っている子を起こされるようなものです。
都会に住む田舎相続人の本音は、
「損なことはしたくない。」
「売るときに登記すればよい。」「自分でやるのが難しい。」
「実家の不動産が把握できていない。」
「他の相続人と疎遠、相続人の仲が悪い。」
「権利証がない、確認方法がわからない。」
「手間と金がかかる、固定資産税を払いたくない。」
と言ったところでしょう。
専門家側から見れば「まず登記」という話になりますが、地方相続人からすると
「登記した瞬間から固定資産税と管理責任を背負い込む」という感覚もあります。
そのため相続登記を推奨する情報発信では、制度面の必要性が中心となり、
不良不動産を抱える地方相続人側の負担感までは十分語られないことがあります。
・相続登記をしたくない本音。
登記しないと売却できない。
→そもそも売れる土地ではないのにお金をかけて登記しても仕方がない。
権利関係が複雑になる可能性がある。
→すでに権利関係はよくわからない。家系図を作るほど暇ではない。
差し押さえの可能性がある。
→誰も相続したがらない未登記不動産を差押さえる価値がない。
相続登記するとは不動産の所有者の名義変更をすることですが、
結構、費用がかかります。
登録免許税、司法書士報酬、その他諸経費などで
少なくとも10万以上はかかると思います。
また、日ごろ疎遠な他の相続人と連絡を取り
遺産分割協議書を作成するのが煩わしいということもあります。
現状ではとくに名義変更しなくても、
何も困ったことはないという事情があります。
平日に仕事を抱えるサラリーマンには、時間的に無理があります。
本音を言えば、相続が発生した結果、二束三文の使い道のない土地や建物
は誰も相続したくないのです。
実際に自分が住んでいない家や家賃収入がない場合でも、
固定資産税は避けられないので、腰が引ける気持ちもわかります。
その結果相続人が誰も固定資産税を支払わずに
長期滞納していると、金額がふくらみます。
市町村役場としても、本来その土地や建物を所有しているはずの相続人に対して
督促あるいは差押えといった強硬手段を取らざるを得なくなります。
相続登記が義務化された以上は、無視するのではなく
どう対応するか腹を決めておくことが肝要かと思います。
どうしても相続する人が見つからない場合は、
期限までに相続放棄することが窮余の選択肢となります。
◆ それでも相続登記しない理由、まとめ。

相続登記未了の過料が10万なら、実際には、登記費用や管理負担との比較
で悩む相続人も少なくありません。
果たして相続登記の義務化は機能するのでしょうか。
テレワーク時代に田舎に移住する人が増加すれば、古民家が見直され、
大都市集中リスクが改善されるのではないかという淡い期待があります。
田舎に移住した人は、ゆとりができて空いた田畑で趣味の野菜作りなんてことになれば、それはそれで満更(まんざら)でもないですからね。
・相続登記義務化に対する対抗策。
その1)相続放棄をして細々と不動産管理を続ける。
(固定資産税不要、管理費用と手間発生)
その2)相続登記をして不動産管理をしつつ売れるチャンスを待つ。
(固定資産税、登記費用と管理費用及び手間発生)
その3)相続登記をせず過料10万円が発生。
ただし過料を支払ったからと言って相続登記を免れることはできません。
(登記費用は掛かりませんが、固定資産税と管理費用及び手間発生)
※過料は刑罰ではなく行政罰なので前科にはなりません。たぶん交通違反の
ような累積点数もないと思います。白い目で見られることもなさそうです。)
どの道を選んでもすっきりせず、憂いが残ります。
年金暮らしになってから役に立たない不動産の固定資産税や、
管理費用を払いたくないのは本音です。
ましてや登記費用は勘弁してほしいという気持ちは理解できます。
しかしどうなっても固定資産税だけはどこまでも追いかけてきます。
いまさら相続放棄もできないし、どれを選んでも費用が発生し、
あまり賢い選択でもなさそうです。
相続登記義務化には賛否がありますが、
不良不動産を抱える相続人の立場からすると、
「簡単に登記と言われても現実はそう単純ではない」
という声が出るのも無理はないところです。
相続登記義務化に対して、国会前で一人反対のプラカードでも持ちたい気分になる、そんな相続人がいても不思議ではないほど、地方不動産の問題は根深いということです。
「相続登記義務化でも登記が進まない理由|地方相続人の現実的負担とは。」への7件のフィードバック