相続登記義務化でも登記をしない本当の理由が深刻。

相続登記義務化でも登記をしない本当の理由が深刻。

これまで特段の事情や売却の予定などがなければ相続で不動産を引き継いだとしても登記することはあまりありませんでした。

特に田舎の家屋敷や農地や山林などは後継者が都会に出てサラリーマンをしていますから、相続が発生しても登記する暇もなければ費用をかけるゆとりもないといったところが本当です。

しかし所有者不明土地(※)が社会問題化したため、相続登記が義務化されることが決定しています。なにしろ所有者不明土地は増加し続け410万haとも言われています。九州一個分より大きな土地がだれのものかわからないというとんでもないことになっているのです。原因は相続での不登記が66.7%、住所変更の不登記が32.4%で合わせて99.1%にも及びます。

(※所有者不明土地とは不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず又は判明しても連絡がつかない土地のことです。)

そうかといって民主的な日本では勝手に国家が個人の所有する不動産を供出させたり、転用するようなことはできないようになっています。民法の基本原理に所有権絶対の原則というものがあります。憲法の基本的人権によって、たとえ所有者不明の土地でも、それを勝手に国のものにすることは現在の法律を変えない限り許されないのです。

その結果、相続人は望まない土地、利用価値の低い土地が相続の重荷になり、一方では、今後の国家の経済的損失が6兆円に及ぶと試算されています。

そこまで理解していながら、相続登記が義務化されても素直に登記する気にならないというのは、どこに問題があるのでしょうか。

◆ 相続登記が義務化されると。

相続登記が義務化されると何がどう変わるのでしょうか。細かいことは端折(はしょ)って法務省民事局が作成した「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」を簡潔にまとめてみました。

所有者不明土地の主な原因は相続登記がなされていないことにあります。現行は人単位で財産権が保護されていますので法律を変えない限り所有者不明土地の処理をすすめることができません。これは公共事業の実施や民間取引を妨げるなど多数の問題の原因となっています。そのため大きくは下記の3点を制度化するというものです。

1)相続登記の申請を義務化。

相続により不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内の
相続登記の申請を義務化する。過料10万円以内の罰則。

2)住所変更登記の申請を義務化。

転居等に伴う住所等の変更登記を2年以内に申請することを義務化。簡便な手続きで住所等の変更が登記に反映されるシステムを構築。過料5万円以内の罰則。

3)土地所有権を国庫に帰属させる制度の創設。

相続又は遺贈により取得した土地を手放して国庫に帰属させることを可能にする
制度。審査手数料と10年分の土地管理費用を徴収。

参考:所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し

その他に、所有者不明土地・建物の管理制度の創設/共有物の利用の円滑化を図る仕組みの整備/長期間遺産分割未了に対する遺産分割の見直し/隣地等の利用・管理の円滑化などが検討されています。

これらの施策は、詳細を見直して2024年度から施行される予定です。

◆ 納得できない相続放棄と管理義務。

被相続人には借金があり遺産がマイナスの場合、相続放棄することができます。その場合でも売却できない不動産に関しては、相続人に管理義務が引き継がれます。

相続放棄したからと言ってすべての責任を免れることにはならないという民法の決まりになっています。

民法には以下のような規定があります。

民法第940条第1項「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となっ
たものが相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同
一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」

この規定の存在により、相続放棄をしても相続人であった者は相続財産管理人が選任されるまでは相続財産を管理しなければいけなくなるのです。

相続放棄すれば、固定資産税は払わなくてもよくなります。しかし田舎の家や田畑や山林は売ろうにも買い手がつきません。仮に相続放棄して所有者がいなくなった不動産はどうなるのでしょうか。不良資産として価値のない不動産を相続放棄により手放したら身軽になりバンザイとなるのでしょうか。

世の中それほど甘くできていません。相続人全員(第3順位の兄弟まで含めて)が相続放棄すると相続人不存在となります。相続人不存在となれば価値のない不動産は誰が管理するのでしょうか。手入れをしない建物は老朽化し瓦がはがれ台風のたびに破損が進みます。庭木は生い茂り雑草が繁茂し手が付けられなくなります。耕作放棄田もゴミ捨て場となり廃棄された洗濯機や家具に葛(くず)が巻きついてきます。虫が発生し近隣に大変な迷惑をかけてしまいます。

放棄田にはできないものの耕作しなくなった農地の管理も大変です。何も作物を作っていなくても、年数回の除草や農業員会や農協との付き合いも手間がかかります。田畑からの収入は全くないのに固定資産税や除草費用の負担がのしかかってきます。農地中間管理機構なる組織が設立され遊休農地の貸借あっせんにより有効活用がすすめられていますが、それは使い勝手の良い大きな農地に限ります。田舎のいびつな形の段差のある農地など誰も耕作したいとは思いませんから借り手はつきません。

相続人不存在の場合には、建前上の仕組みとして相続財産は法人化して相続財産管理人が選任されます。選任された相続財産管理人は相続財産の清算等を行い、残った相続財産を国庫に引き継ぎます。でもそうはうまく問屋が卸しません。この仕組みは誰かが裁判所と相続財産管理人にお金を払って相続財産の管理をお願いしなくては機能しません。費用が結構かかりますから、是が非でも借金を取り返したい債権者ぐらいしか利用しない仕組みと言えそうです。

全く実情からかけ離れたばかばかしい仕組みです。相続財産を相続したくないから相続放棄をしたのに、相続財産管理人に報酬を支払うなんて意味がありません。そうかといって結局、相続財産の管理責任が残ってしまうとは、相続放棄も楽じゃないということです。

この上さらに困ったことがあります。最後に国庫に引き継ぐと書きましたが、国は相続財産でも価値のない不動産は、ほとんど引き取ってくれないそうです。何を馬鹿なことをとお思いでしょうが、あなたが不要なものは国もいらないのです。もともと換金できるような不動産なら相続放棄しませんから、そもそも問題の解決にはなっていないのです。

相続放棄のときに残る田舎の不動産は、価値がないから売ろうにも売れない、むろん誰も欲しがらないから国も欲しがらない不動産になります。せっかく相続放棄しても売れない不動産の管理責任はいつまでも続くことになります。不良不動産は相続して売却する以外に未来永劫にわたり縁が切れないということになりそうです。

相続財産管理人に報酬を支払うより自分で管理して草刈りでもした方がお安く上がるというものです。こうなると相続財産に多額の負債がある場合は、素直に相続放棄をして管理義務のみを負い続けるのが良いのかもしれません。

相続財産に負債がないならフツーに相続して、地道に売却先を探す方が良いのかもしれません。将来的に売れるか売れないかは時の運、相続すれば自分の財産ですから、いつでも処分が可能です。どうしても売れないときは引退後に田舎に引っ込んで家庭菜園でも趣味にすることです。

売れない家の相続、共有にすれば固定資産税は誰が?

◆ 相続登記を義務化したところで、田舎相続人の本音。

相続登記が義務化されても敢えて登記したくないというのが田舎の相続人の本音でしょう。

家制度が崩壊し家族がバラバラになり、連休にもコロナ禍で子や孫にも会えない時代です。都市に人口が集中し地方都市は老人ばかりになりシルバーマークの車が信号で並んでいます。

農地はあちこちで荒廃し、人口減のため大型店はどんどん撤退していきます。そんな田舎相続人は都会に住んで田舎の年老いた両親を顧みることもできず、日々の生活に追われています。田舎相続人にとって相続登記の義務化とは、眠っている子を起こされるようなものです。

都会に住む田舎相続人の本音は、「損なことはしたくない。」「売るときに登記すればよい。」「自分でやるのが難しい。」「実家の不動産が把握できていない。」「他の相続人と疎遠、相続人の仲が悪い。」「権利証がない、確認方法がわからない。」「手間と金がかかる、固定資産税を払いたくない。」と言ったところでしょう。

相続登記を推奨するサイトはビジネスが目的ですから田舎相続人の本音を理解しても仕方がありません。営業妨害をする気はさらさらありませんが、本音です。

  • 登記しないと売却できない。

→そもそも売れる土地ではないのにお金をかけて登記しても仕方がない。

  • 権利関係が複雑になる可能性がある。

→すでに権利関係はよくわからない。家系図を作るほど暇ではない。

  • 差し押さえの可能性がある。

→誰も相続したがらない未登記不動産を差押さえる価値がない。

相続登記するとは不動産の所有者の名義変更をすることですが、結構、費用がかかります。登録免許税、司法書士報酬、その他諸経費などで少なくとも10万以上はかかると思います。また、日ごろ疎遠な他の相続人と連絡を取り遺産分割協議書を作成するのが煩わしいということもあります。現状では特に名義変更しなくても何も困ったことはないですし、平日に仕事を抱えるサラリーマンには時間的に無理があります。

自分でやる相続登記の抜け漏れ想定外。

本音を言えば、相続が発生した結果、実際に自分が住んでいない家や家賃収入がない場合でも固定資産税は避けられないので、二束三文の使い道のない土地や建物は誰も相続したくないのです。その結果相続人が誰も固定資産税を支払わずに長期滞納していると、金額がふくらみ市町村役場としても本来その土地や建物を所有しているはずの相続人に対して督促あるいは差押えといった強硬手段を取らざるを得なくなります。

相続登記が義務化された以上は、無視するのではなくどう対応するか腹を決めておくことが肝要かと思います。どうしても相続する人が見つからない場合は、期限までに相続放棄する必要があります。

◆ それでも相続登記しない理由、まとめ。

相続登記未了の過料が10万ならそれが一番コスト的には安いと言えそうです。果たして相続登記の義務化は機能するのでしょうか。

テレワーク時代に田舎に移住する人が増加すれば古民家が見直され、大都市集中リスクが改善されるのではないかという淡い期待があります。田舎に移住した人は、ゆとりができて空いた田畑で趣味の野菜作りなんてことになれば、うっとうしいコロナ禍でも満更(まんざら)ではないですからね。

その1)相続放棄をして細々と不動産管理を続ける。(固定資産税不要、管理費用と手間発生)

その2)おとなしく相続登記をして不動産管理をしつつ売れるチャンスを待つ。(固定資産税、登記費用と管理費用及び手間発生)

その3)とことん相続登記をせず過料10万円を払う。ただし過料を支払ったからと言って相続登記を免れることはできません。しかしとことん無視すればまた過料ということになるのでしょうか。(登記費用は掛かりませんが、固定資産税と管理費用及び手間発生)

※過料は刑罰ではなく行政罰なので前科一犯ではありません。たぶん交通違反のような累積点数もないと思います。白い目で見られることもなさそうです。)

どの道を選んでもすっきりせず憂いが残ります。年金暮らしになってから役に立たない不動産の固定資産税や管理費用を払いたくないのは本音です。ましてや登記費用は勘弁してほしいという気持ちは理解できます。しかしどうなっても固定資産税だけはどこまでも追いかけてきます。

いまさら相続放棄もできないし、困り果てた結果、蒸発する、行方不明になることで責任は免れるかもしれませんが、あまり賢い選択でもなさそうです。相続登記義務化反対のプラカードをもって国会前をデモするか、たぶん賛同者はいないので一人だと思いますが。

住民票の除票と戸籍附票の除票とは、わかりやすく。

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