相続で孫と養子縁組をすると節税できるが相続人不和に。

相続で孫と養子縁組をすると節税できるが相続人不和に。

相続税を節税するための養子縁組みは、何かと問題が多いのです。ある面ではメリットがありますが、隠れたとことにデメリットがあることもあります。

相続で養子縁組を考えるとき、配慮すべきことをまとめました。何事も両面があり一筋縄ではいかないというお話です。

被相続人と孫が養子縁組みをすれば、相続人が一人増加し基礎控除が600万と生命保険の非課税枠が500万増えます。合計では1,100万の控除となります。相続税がかかるかどうか境目の人には、かなり大きな金額です。

相続税対策としての養子縁組みの目的や条件、節税効果などを整理しました。また養子縁組みの当事者の気持ち、他の相続人の本音も偽らざるところを書きました。

詳しくは養子の気持ちとして以下に書きました。

■養子縁組の難しさは当事者になるとわかる。

そういう養子縁組みをするにあたり、目先に見え隠れするデメリットがあります。また将来に渡ってのデメリットも、考慮する必要があるのです。

安易な、節税目的の養子縁組みを推奨しているのではありません。養子縁組みには親族を含めて、新たな相続人として親子関係を受け入れる、お互いの気持ちの整理が必要であると申し上げたいのです。

◆ 養子縁組のパターンいろいろ。

相続税の節税のために養子縁組をする場合、下記のようなパターンが考えられます。実子がいる場合といない場合、実子が2人以上いる場合で事情が変わります。

・長男の妻を養子にする。(嫁養子)

・孫を養子にする 。(孫養子)

・娘の婿を養子にする。(婿養子)

・後妻の連れ子を養子にする。(連れ子養子)

・甥姪を後継ぎとして養子にする。(後継養子)

といったことが考えられます。揉めそうなケースは相続人に兄弟姉妹がいる場合です。孫を養子にすれば、兄弟姉妹間の相続の公平さが損なわれます。遺言でもあれば別ですが、そうでなければこの世知辛い世の中、遺産分割協議で揉めることも想定されます。

◆ 養子縁組のメリットを整理。

基本的には養子縁組をして相続人が増えますと、次のような相続税を減らす効果があります。

(1)相続税の基礎控除が一人分(600万)増える。

(2)生命保険の死亡保険金の非課税枠一人分(500万)増える。

(3)死亡退職金の非課税枠一人分(500万)増える。

(4)相続人が増えると相続税の税率が下がる。

死亡退職金の非課税枠は、オーナー経営者でもなければ該当しないかもしれません。しかしそれ以外の基礎控除の加算、死亡保険金の非課税枠は確保できそうです。

また相続税の計算手順上、相続人が増えることで低い税率の適用が可能になる場合があります。

◆ 相続での養子縁組とは。

養子にするのは娘婿でも長男の子(孫)でも構いません。普通養子の届けは本籍地の役場で受け付けてくれます。

養親と養子(孫の場合は親権者)の同意があり、証人が二人必要ですが書類さえ整えれば簡単な手続きです。

民法では養子の人数に制限はありませんが、税法では実子があれば一人、実子がなければ二人までとなっていますので、節税目的であれば1名が限度です。

養子縁組して節税すればなんと1,100万も控除(税額が控除になるのではなく、相続税の対象額が減ります。)になるわけですから、考えてみればこれは価値があります。また相続人が多くなれば、相続人一人当たりの取り分は減りますが、相続税の税率が下がります。

シンプルな事例で比較すると、たとえばご主人がすでに他界された二次相続のケースで、子が二人、孫が2人いる場合の基礎控除の事例をあげます。

A)何もしない場合

3.000+600×2+500×2=5,200万

B)養子一人(1,100万増加)

3,000+600×3+500×3=6,300万

[計算式の説明]

基礎控除[3,000万]+(基礎控除1人当たり[600万]×相続人数)+(死亡保険金控除[500万]×相続人数)=控除額合計

相続財産が6,300万以下なら養子1人で相続税は0円になり、相続税の申告すら不要になります。魅力的な手法ですが、ためらいも問題もあります。

・養子縁組は相続人の不満に。

養子縁組は相続全体からすれば、相続税の節税になっています。でも相続人一人一人から見れば単に自分の分け前が減り、予定していた相続財産が減額されることにしかなりません。

これは他の相続人としては、面白かろうはずがありません。遺産の規模にもよりますが、サラリーマンの年収クラスがなくなることも珍しくないわけです。我慢して発泡酒で節約している身の上には、納得できない大きな金額です。

相続する財産の額が大きければ、大きいほど手取りの差額は大きくなります。

仮に孫を養子にするのであれば、それぞれ一人ずつ養子にすれば確かに公平ではありますが、節税効果は1人だけであり、それぞれに事情が違うのでそうもいかないのです。

この手の話は表向きの話と実のところの話とが絡んできますので、きちんと説明できないことが多く、親がなくなってから遺産分割協議でもめる原因になります。

◆ 養子縁組のデメリット

養子縁組を利用することで相続人が増えますので、確かに相続税の節税にはなります。しかし、次のようなデメリットもあります。

(1)節税養子は認められないことがある。(養子縁組はできます。)

(2)他の相続人の相続・遺留分が減るので不和になる。(遺産分割協議不調)

(3)孫を養子にする場合には相続税は2割加算(孫が代襲相続人であれば加算なし)

節税養子で最も気にすることは、節税目的だけで養子縁組をすれば、税務署から祖税回避行為とみなされる可能性が否定できません。かなり明確に否認規定が示されています。

相続税法の第63条には、以下のような記述があります。(引用)

(相続人の数に算入される養子の数の否認)

第六三条 第十五条第二項各号に掲げる場合において当該各号に定める養子の数を同項の相続人の数に算入することが、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合においては、税務署長は、相続税についての更正又は決定に際し、税務署長の認めるところにより、当該養子の数を当該相続人の数に算入しないで相続税の課税価格(第十九条又は第二十一条の十四から第二十一条の十八までの規定の適用がある場合には、これらの規定により相続税の課税価格とみなされた金額)及び相続税額を計算することができる。

そもそも養子縁組が節税目的かどうかは第三者にわかることではないと思うのですが、いかがなものでしょう。

・養子縁組の本来の意味と目的。

養子縁組の動機には人の価値観が複雑にからみ、相続財産以前に家を継ぐとかお墓やお仏壇を守って次の代に引き継ぐということもあります。

また実子がいない人は自分の財産の引き継ぎ手を指定する意味で、養子縁組をする場合もあります。また子のない兄弟姉妹の財産を他の兄弟に渡さないために、自分の子を兄弟の養子にすることもあります。実際はとても複雑です。

養子縁組による相続の際の節税はあくまでも結果であると言うことのように思います。簡単には節だけが目的とはなり得ない、ということを理解することが大切なように思います。

孫を養子にすると、孫が相続人に加わります。相続税の一代飛ばしになりますから、歯止めとして2割加算となります。

加算ではありますが、一代飛ばしの相続は節税になっていますから、デメリット扱いをすべきではないかもしれません。ただし、子がなくなっており孫が代襲相続人である場合は2割加算がありません。

■相続人以外への遺贈は2割加算、生命保険の受取人が孫なら2割加算 。

◆ 相続の養子縁組、まとめ。

節税養子は有効な相続税の節税手段ではありますが、それだけでは否認されるリスクがあります。もともとの養子縁組という仕組みは、法的な親子関係を新たに作る役割があります。

そこは節税だけではない人間関係の人生模様があります。他の相続人に十分配慮した養子縁組をご検討いただければと思います。

もし養子縁組で節税したいとお考えなら、遺言書をお書きになるか、生命保険で受取人を指定しておくのがよいように思います。

養子縁組で相続税の節税とは言いますが、やり方を間違えると兄弟間の猜疑心が芽生えることにもなりかねません。くれぐれも慎重にと申し上げておきます。

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