相続税の節税養子は戸籍が汚れるだけではない。
相続税節税のための養子縁組みは問題が多いのです。
何度も相続税の節税対策として養子縁組みの手法を紹介しておきながら、いまさらデメリットを申し上げるのは少々気が引けるのですが、何事も両面があり一筋縄ではいかないというお話です。
相続税対策としての養子縁組みの目的や条件、節税効果などは以下のページに紹介しました。また養子縁組みの当事者の気持ち、他の相続人の本音も偽らざるところを書きました。
そういう養子縁組みをするにあたり目先に見え隠れするデメリット以外に将来に渡ってのデメリットも考慮する必要があるのです。
安易な節税養子縁組みを推奨しているのではなく、養子縁組みには親族を含めて新たな親子関係を受け入れるお互いの気持ちの整理が必要であると申し上げたいのです。
◆養子縁組のパターン
相続税の節税のために養子縁組をする場合下記のようなパターンが考えられます。実子がいる場合といない場合、実子が2人以上いる場合で事情が変わります。
・長男の妻を養子にする。(嫁養子)
・孫を養子にする 。(孫養子)
・娘の婿を養子にする。(婿養子)
・後妻の連れ子を養子にする。(連れ子養子)
・甥姪を後継ぎとして養子にする。(後継養子)
といったことが考えられます。揉めそうなケースは相続人に兄弟姉妹がいる場合です。孫を養子にすれば、兄弟姉妹間の相続の公平さが損なわれます。遺言でもあれば別ですが、そうでなければこの世知辛い世の中、遺産分割協議で揉めることも想定されます。
◆養子縁組のメリット
基本的には養子縁組をして相続人が増えますと、次のような相続税を減らす効果があります。
(1)相続税の基礎控除が一人分(600万)増える。
(2)生命保険の死亡保険金の非課税枠一人分(500万)増える。
(3)死亡退職金の非課税枠一人分(500万)増える。
(4)相続人が増えると相続税の税率が下がる。
死亡退職金の非課税枠はオーナー経営者でもなければ該当しませんでしょうが、それ以外の基礎控除の加算、死亡保険金の非課税枠は確保できそうです。
また相続税の計算手順上相続人が増えることで低い税率の適用が可能になる場合があります。
◆養子縁組のデメリット
養子縁組を利用することで相続人が増えますので、確かに相続税の節税にはなります。しかし、次のようなデメリットもあります。
(1)節税養子は認められないことがある。(養子縁組はできます。)
(2)他の相続人の相続・遺留分が減るので不和になる。(遺産分割協議不調)
(3)孫を養子にする場合には相続税は2割加算(一代飛ばし相続)
節税養子で最も気にすることは、節税目的だけで養子縁組をすれば、税務署から祖税回避行為とみなされる可能性が否定できません。かなり明確に否認規定が示されています。
相続税法の第63条には、以下のような記述があります。(引用)
(相続人の数に算入される養子の数の否認)
第六三条 第十五条第二項各号に掲げる場合において当該各号に定める養子の数
を同項の相続人の数に算入することが、相続税の負担を不当に減少させる結果と
なると認められる場合においては、税務署長は、相続税についての更正又は決定
に際し、税務署長の認めるところにより、当該養子の数を当該相続人の数に算入
しないで相続税の課税価格(第十九条又は第二十一条の十四から第二十一条の十
八までの規定の適用がある場合には、これらの規定により相続税の課税価格とみ
なされた金額)及び相続税額を計算することができる。
養子縁組が節税目的かどうかは第三者にわかることではないと思うのですが、いかがでしょう。
養子縁組の動機には人の価値観が複雑にからみ、相続財産以前に家を継ぐとかお墓やお仏壇を守って次の代に引き継ぐということもあります。
また実子がいない人は自分の財産の引き継ぎ手を指定する意味で養子縁組をする場合もあります。また子のない兄弟姉妹の財産を他の兄弟に渡さないために自分の子を兄弟の養子にすることもあります。実際はとても複雑です。
上記の最高裁の判決は誰が良いか悪いかではなく、節税だけが目的であっても親子関係が発生すれば義務・責任関係も生まれます。そういうところから妥当なところかと思料しています。
養子縁組による相続の際の節税はあくまでも結果であり、それが目的とはなり得ないということを理解することが大切なように思います。
相続税では申告書の提出を条件に税金を軽減しくれる仕組みがいくつもあります。
それを有効に使いたければ10か月以内の相続税の申告期限までにい遺産分割協議がまとまっていなければなりません。
相続人全員が納得の上、遺産分割協議書に実印を押していないと大きな損失につながることがありえます。節税養子どころではない大きな損をすることもあるのです。
孫を養子にすると孫が相続人に加わります。相続税の一代飛ばしになりますから、歯止めとして2割加算となります。加算ではありますが、一代飛ばしの相続は節税になっていますから、デメリット扱いをすべきではないかもしれません。
◆まとめ
節税養子は有効な相続税の節税手段ではありますが、それだけでは否認されるリスクがあります。もともとの養子縁組という仕組みは法的な親子関係を新たに作る役割があります。そこは節税だけではない人間関係の人生模様があります。他の相続人に十分配慮した養子縁組をご検討いただければと思います。