家族信託とは何か?必要ないと言われる庶民の理由。

家族信託とは何か?必要ないと言われる庶民の理由。

親が認知症になると銀行口座が凍結され、お金が下ろせなくなると困るということがネットのあちこちに出ています。それをクリアする方法として成年後見制度や家族信託が最後の砦のように言われています。

そのことをビジネスにつなげようとする、士業の営業サイトが上位表示されています。ほんとうに家族信託や成年後見制度を利用した方がよいのでしょうか。

家族信託でも成年後見制度でも、専門家にお願いすればそれなりの費用が発生します。またそれぞれに、意外なデメリットもあります。本当に家族信託は必要なのでしょうか。

当サイトは士業のような営業サイトではありません。それゆえ相続税がかかるほどでもなく、お金をできるだけかけたくない方向けの情報をお伝え出来ます。

認知症の親を抱えて財産は年金口座と住んでいる家屋敷のみというケースには、お役に立つかもしれません。

家族信託のメリットとデメリットを踏まえた上で、家族信託が必要かどうか、またどうすればよいか迷っている方の参考になれば幸甚です。

■認知症による年金口座凍結を回避するウラ技。

◆ 家族信託とは何か、民事信託、成年後見制度との違い。

家族信託とはどういう仕組みなのでしょうか? 民事信託とは違うものなのでしょうか? また成年後見制度との違いは? そもそも信託とはどのような仕組みなのでしょうか。ここは遠回りのようでもおさえておかないと理解が進まないのです。

サラリーマンが知っている信託では、信託銀行ぐらいしかありません。

信託とは、民法の信託法にもとづく法的な仕組みです。自分の財産を信頼できる人に託し管理運用してもらう制度と定義できます。

ビジネスで契約する信託は商事信託、親子などの個人間の信頼で契約する信託は、民事信託という区別ができます。民事信託でも家族間で契約すれば家族信託と言うことになります。

家族信託は民事信託の一部か、ほぼ同義と言えそうです。いずれも改正された新信託法の規定に従うことになります。

信託協会によると、信託を構成するのは「委託者」「受託者」「受益者」の3者となります。

委託者:財産管理をお願いする人(たとえば財産管理に不安がある親)

受託者:財産管理を任される人(親から信認されていいる長男など)

受益者:信託契約の利益を受ける人(委託者と同じ場合が多い)

成年後見制度は、高齢者などの財産管理をするという点では同じですが、家族信託とは大きく機能が異なります。

・成年後見制度と家族信託の違い。

一般的には、高齢者が認知症などになると意志判断ができなくなるので、財産管理は、成年後見制度を利用することになります。しかし成年後見制度では、本人の財産を維持することが目的ですので、積極的な財産運用などはできなくなります。

成年後見制度は、家庭裁判所の権限が強く、成年後見支援信託口座に入れられたお金は一円たりとも裁判所の許可がないと動かせないという、ガチガチの制度です。

確かに士業と言えども人間ですから、なかには悪さする人もいます。そういう意味で手堅いですが煩わしいところです。

またそれだけではないデメリットは、一度成年後見人を選任すると被後見人(親)はすべての判断ができないことになりますので、自分の意志で生前贈与も生命保険の解約もできなくなります。

ところが、家族信託を利用すると、認知症になったあとも受託者によって継続して投資などの柔軟な財産管理が可能になります。そのため家族信託のほうが、より柔軟な財産管理ができます。

成年後見制度は、本人が生活を送るための財産を残すことを主眼とした制度ですので、家庭裁判所の判断が関与します。そのため管理や運用・処分に関しては制限が多いのです。

家族信託からみれば、ガチガチの融通無し、取消しできないという面があります。そういう点で財産管理には、家族信託が有利と言えそうです。

家族信託はこのような成年後見制度ではできない、財産の柔軟な管理と運用・処分などに向いています。相続では家族以外の第三者を介入させて金を払う必要はないので、その点でも家族信託の実用性は高いと思います。ただし信託法の縛りを受けますから、細かい決まり事や契約手順などについては、アドバイスを受ける専門家がいた方がよいかもしれません。

・受託者の責任範囲について。

受託者には、信託法で定められた信託事務遂行義務(29 条 1 項)、善管注意義務(同条 2 項)忠実義務(30条から32条)、公平義務(33条)、分別管理義務(34条)、情報提供義務(36条から39条)などが課せられます。

それぞれは難しい言い方ですが、受託者の財産と分けて管理し、運用結果の定期報告や必要な資料の作成・申告なども結果を報告する義務があるということです。決して楽な受託者と言うわけではありません。

■相続財産を教えてくれない親の本音と秘密主義。

◆ 家族信託が有効な場合とメリット。

家族信託をうまく使えばクリアできるケースでは、高齢の親の収益不動産の管理などがあります。賃貸マンションを所有しているようなケースは、家族信託が有効だと思います。

年老いた親に変わり家族信託で管理すれば、受託者である家族が収益不動産の管理や売却を行えるようになります。

家族信託の場合、不動産などの財産の名義を受託者に変えます。贈与ではなく受託者のとしての管理権限を付与するのですが、物件の名義変更手続きが必要です。所有者の名義が変わりますから、売却などの処分も可能となり財産の管理がしやすくなるのが大きなメリットです。

家族信託では、現金は信託口口座に移されます。このため受託者の名義で財産を扱えるため、預貯金の引き出しや資産運用、処分などは委託者の生死に関わらず、一定の範囲内で自在に行えます。

ただし年金口座は一身専属権なので、自由にできないという問題は残ります。これは認知症などのリスクに対し、キャッシュカードを預かるなどの方法で対応するか、任意後見制度の併用などで別途考える必要があります。

収益不動産などがなく財産が住んでいる家と年金だけと言う場合、家族信託などの手法は手間と費用ばかり掛かるので、慎重に考えられた方がよいように思います。その点は、次項以降の家族信託のデメリットに譲ります。

■相続セミナーがヤバイ理由、乗せられると相続税対策失敗。

◆ 家族信託が必要ないケースとデメリット。

家族信託は、財産が少ない場合やすでに生前贈与をしている場合には必要ないと言えそうです。庶民では、収益不動産や投資案件を管理している親はそれほど多くないと思います。そのような場合は、あえて家族信託で管理する必要も少ないと思います。

もう一つの家族信託が適していないケースは、適任である受託者がいないような場合です。受託者は、親(委託者)の信認を得ていないと任せることができません。家族関係がよくないと、そもそも家族信託は使いにくい仕組みです。

家族信託を運用する受託者は、ある程度経理実務や申告の知識、定期的な契約の管理などができないといけません。士業に丸投げするにしても、基礎資料は受託者が揃えないといけません。

また、我が子と言うものは親からすれば信用していないわけではないが、任せるのは不安と言うこともあるかもしれません。意外と子に対する不安が家族信託の障害になるかもしれません。

また子に財産や十分な収入があり、親の財産が凍結されても困らない場合は、あえて手間のかかる家族信託は必要ありません。その場合、親は遺言書を書いておけばそれでことは治まるように思います。

・年金口座は一身専属、信託不可。

また親の財産が年金だけと言うような場合は、年金口座は信託できない一身専属権がありますから家族信託で信託口口座のように管理することはできません。

銀行によっては、自動送金などの仕組みがあります。年金口座から定期送金させることで口座の凍結を回避することはできる場合があります。

家族信託には、士業に依頼すると結構な費用が発生します。庶民の相続では、費用対効果が悪いと言うこともありますから、採算と言うことも考える必要があります。

・家族信託のデメリットを具体的に。

家族信託には、次のようなデメリットがあります。箇条書きに反論も書いています。

・意思能力を喪失した後は利用できない→意思能力があるうちにすればよい。

・損益通算ができない→それはルールなので仕方ない。

・節税対策にはならない→運用方法次第で相続税の節税は可能。

・信託できない財産がある→年金口座などは信託できないので別の対策。

・税務申告等の手間がかかる→収益を上げれば当然必要なこと。

・遺留分侵害額請求の対象となる場合がある→遺留分は事前に配慮し納得させる。

・受託者の暴走の危険性がある→自分の息子なら信用するかあきらめる他ない。

・専門家に相談する費用が発生→自分ですれば無駄な出費、年金と家だけなら不要。

士業の先生の言い分も書いておきます。一理あります。

・自分で手続きを行ったが無効と処理された→慎重にやれば大丈夫、でも心配。

・思っていなかった額の税金が発生した→利益が出れば税金はやむを得ない。

・公正証書を作成せず信託口口座の開設が不可→公正証書は信託契約の義務ではない。

・遺留分を考えず他の相続人との仲が悪くなった→事前に親族の打ち合わせを綿密に。

・受託者が適正に財産を管理・処分しなかった→どこにもあるリスク、信用するかしないか。

・家族信託では信託口口座の開設。

また信託口口座と受託者の個人財産と区別するため「ヤマダタロウ 受託者 ヤマダジロウ」のように受託者の名が入った専用の信託口口座を開設する必要があります。また受託者は、信託契約書を作成し、当然ですが管理を任される財産の目録を正確に記載することも求められます。

ただ受託者が利用している銀行が、信託口口座を受け付けてくれるかどうか、事前に確認しておくことも必要です。ダメな銀行もありますので。

比較的使い勝手が良い民事信託がなぜそれほど広がらないかと言うと、相続対策を売り込む士業などの側にはほとんどメリットがないからなのではないかと思います。

税理士さんにしても金融機関にしても、家族信託となるとビジネスとしての出番が少なくなるようです。家族信託のコンサルを売りにしている士業サイトはビジネスにしていますが。

■相続で親の本音は秘密主義、親の公平は子の不公平。

◆ 家族信託が必要ないという結論、と補足。

家族信託は、財産がそれほど多くない、あるいは収益不動産がなく親の年金口座と家屋敷だけと言うような場合必要ないと言えそうです。また家庭内の信頼関係がよろしくなく、財産管理などを委託する適切な受託者がいないようなケースも必要ないというか使えないと言うことになります。

また、士業の先生にコンサルをお願いすると費用が発生しますから、その点からも必要ないという方はいらっしゃるように思います。

遺産の分割に関しては、家族信託よりも遺言書の方が被相続人の遺志を反映しやすいですし、手間も費用も格段に安くなります。とくに遺言書の法務局保管制度ができてからは、手軽で確実な遺言書となっています。

決して家族信託が良くないと言うことではなく、メリットもたくさんありますからケースバイケースで選択し有効に利用されるとよろしいかと思います。家族信託は自由度が高いのでその反面、受託者のよる損失リスクということも考えておかなくてはなりません。

・家族信託の独自機能について。

また、家族信託独特の機能があります。あまり関係することはないかもしれませんが、以下に概略を書いておきます。

家族信託の特異な側面として倒産隔離機能があります。信託された財産は、委託者や受託者が破産や差し押さえとなった場合でも保護されることになっています。一見メリットのように見えますが、該当するようなことは少ないレアなケースだと思います。

また家族信託は、不思議な機能があります。受益者連続信託などとややこしい言い方ですが、二次相続以降、誰に財産を渡すのかを指定できるのです。でも考えてみれば、一次相続でもなかなか誰に渡すか決められないのが人間です。二次相続まで指定するようなことが実際あるでしょうか。受益者連続信託とは有益ですが、そこまで利用するケースはないのではないかと思います。

◆ 家族信託、まとめ。

自分の死後の憂いをなくすための手段として、成年後見制度や家族信託があります。家族信託も信頼できる受託者に任せることで、憂いを軽減することが目的です。

それぞれにメリットがありデメリットがあります。ここをよく理解して選択する必要があります。家族信託は必要ないという意見もありますが、収益不動産などがあれば有効な仕組みです。

ご自分の財産状況、子たちとの関係性なども判断に影響を与えると思います。親から家族信託を言い出すか、子たちから言い出すか、またそのタイミングも難しそうです。

家族信託を考える場合、認知症が進んでしまう前に契約しなくてはなりません。ところが認知症の方は正常な時間もあったり、外部の人とはまともな会話をしたりすることもあります。話した内容は理解したように見ますが、すっかり忘れています。

他人の前では正常になり、身内の前では認知症というような厄介な病気でもあります。認知症患者と付き合うのは、結構難しいのです。

補足として申し上げると、相続対策を売り込むことでお金を儲ける立場の人たちは、本質的なデメリットは言わないものです。広くセカンドオピニオンを利用し、立場の違う人の意見を聞くことが判断を誤らないポイントではないかと思います。

相続税が高いという誤解による過度な節税対策に落とし穴。

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