成年後見より民事信託が有利な理由を整理しました。
相続財産が現預金と生命保険のように換金性の高いものばかりであれば相続で分割することは容易です。
しかし相続財産の内訳が土地不動産や自社株などの場合、所有権を分割すると後でもめたり相続後の不動産経営の効率が悪くなることがあります。
また被相続人には高齢になると認知症のようなリスクもあります。
早めの財産管理を自分以外の人にお願いする場合、成年後見制度や遺言信託などがあります。
◆成年後見制度のデメリット。
成年後見制度は、家庭裁判所の権限が強く、成年後見支援信託口座に入れられたお金は一円たりとも裁判所の許可がないと動かせないという、ガチガチの制度です。
確かに士業と言えども人間ですから悪さする人もいます。そういう意味で手堅いですが煩わしいところです。
それだけではないデメリットは、一度成年後見人を選任すると成年被後見人はすべての判断ができないことになりますので、自分の意志で生前贈与も生命保険の解約もできなくなります。
会社の役員も下りなくてはなりません。
成年後見人を選任するということは、それなりの認知症ですから正しい判断ができないということでしょう。
しかし認知症の方は正常な時間もあったりします。結構付き合うのは難しいのです。他人の前では正常になり身内の前では認知症というような厄介な病気でもあります。
◆遺言信託の限界。
遺言信託はある程度財産があり、揉めそうなケースにはいいのかもしれませんが、費用が多額です。
先日、相続専門のOB税理士に話を聞きましたが、遺言信託は費用の割には何もしてくれないとぼやいていました。
相続税の節税対策のアドバイスやスキームの提供では弱いのです。遺言はルールどおりに確実に執行してくれますが、それ以上の期待はしないほうがよいようです。
ただ遺言信託は金融機関などが組織として請け負いますから、人が変わっても責任は果たしてくれます。いくら優秀で親切な税理士でも相続が発生したその時に、現役バリバリでいるという保証はありません。
◆民事信託の有効性と問題点。
あまり聞かない仕組みですが民事信託という選択もあります。信頼できる身内がいる場合には有効な仕組みだと思います。
例えば長男を民事信託の受託者として契約します。他の兄弟は委託者兼受益者となり受託者が資産の管理運用を行い、分割を決めることができます。
費用がほとんどかかりません。結構いろんな場面で使い勝手があります。
後継者候補の長男に自社株を信託財産としてすべて託すことで経営権を委譲しつつも見守ることができます。
民事信託の難点は先ほどのOB税理士も指摘していましたが、受託者が悪さした時に打つ手が整備されていないのです。まだこれから変わっていく仕組みではないかと思います。
なぜ、このコストがかからず使い勝手が良い民事信託が広がらないかと言うと、相続対策を売り込む側にはほとんどメリットがないからなのではないかと思います。
税理士さんにしても金融機関にしても民事信託となると出番が少なくなるようです。
◆ まとめ
相続が発生した時点で、被相続人はこの世にいませんから発言権はありません。生前と言えども老いが進むと適切な判断能力が衰えてきます。いかにワンマンで強権的なオーナー経営者も忍び寄る老いの現実には勝てないのです。
自分の死後の憂いをなくすための手段として成年後見制度や遺言信託があります。民事信託も信頼できる受託者に任せることで憂いを軽減することが目的です。それぞれにメリットがありデメリットがあります。ここをよく理解して選択する必要があります。
相続対策を売り込むことでお金を儲ける立場の人たちは、本質的なデメリットは言わないものです。広くセカンドオピニオンを利用し立場の違う人の意見を聞くことが判断を誤らないポイントではないかと思います。
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