がん保険、法人の全損既契約は保険金請求が大問題になる深い理由。
法人で契約するがん保険は、平成24年4月27日までは保険料を全額損金で処理することができました。4月28日以降、国税庁の通達により新規契約については、支払った保険料について二分の一損金算入となりました。
今は、課税の繰り延べができるがん保険は、二分の一損金もなくなり完全にシャットアウトされました。しかし全額損金できるがん保険の既契約は、既得権として維持されていると思います。
保険料を全額損金できるおいしい既得権ですが、長期にわたると被保険者も高齢化したり病気になったり退社したりします。
もっともやっかいなケースは、被保険者ががんに罹患することです。なぜやっかいなのか、どうすれば良いのか、悩みどころと落としどころについて事例を交えて探ってみました。
※保険金(がん死亡保険金)=給付金(入院給付金、診断給付金、手術給付金)
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◆ 法人契約のがん保険とは、保険金は会社受け取り。
法人契約のがん保険の福利厚生は名目だけで、本当は節税のためです。利益の繰り延べが目的ですから、今更二分の一損金ではがん保険に追加加入する気がおきません。
それまでの契約は既得権として有効継続して、損金算入効果を享受しながらメンテナンスを続けることになります。会社として役員退職金や設備投資の資金需要があるときに解約して、解約返戻金を雑収入で受けることになります。
個人で加入するタイプ、法人が加入する節税タイプ、どちらもがん保険としての仕組みは同じです。でも似て非なるがん保険です。しかしがん保険ですから被保険者ががんになれば、保険金や給付金がでます。受取人は会社というのも話を難しくします。
目的が課税の繰り延べですから、保険料ができるだけ多額になることで、解約返戻金も多額になるよう設計されています。個人で加入するようながん保険ではないのです。
◆ 保険金がでる節税保険の不可解。
目的は利益の繰り延べなのですが、被保険者の診断書を添えて保険金を請求すればちゃんと保険金が支払われます。ほとんどの場合被保険者は従業員だと思います。
従業員にすれば不幸にして自分ががんになり、診断書を提出しても保険金の受け取りは会社ということになります。自分の不運というか、不幸な巡り合わせで、会社が儲けるという、どうも納得できない結末になります。
社内の福利厚生規定を作成して、その一部を被保険者に支給するケースもあります。でも法人のがん保険というのはたいていの場合、受け取り保険金が大きくて社員間の不公平感を招きます。ですから見舞金等の支給規定は、妥当な少額に抑えることが普通です。
もし保険金や給付金を受け取るなら、問題となるのは、被保険者たる従業員にどこまで契約内容を開示するかです。できれば内容をくわしく知らしたくありません。
加入するときにちゃんと被保険者に説明しているというケースは、少ないのではないかと思います。どうしてそれで加入できるかは、自分で体験しないとわかりません。でもあの手この手の複合手段で、成立するようにできていました。一部の種明かしをすると、社員数だけ100円ショップで買った印鑑がいまでも役に立っています。
◆ 社員ががんに罹患すると会社が困るわけ。
法人契約のがん保険は契約者が会社、体を提供する被保険者が社員、保険金の受取りは会社という形態になります。
多くの法人契約のがん保険では、社員は自分が会社契約のがん保険の被保険者であることを知らないか、あるいはわかっていないかのどちらかです。
なぜなら契約通りであれば、社員にはメリットはまったくありませんから、会社は説明もしないし、社員は聞きもしません。保険料を負担する契約者である会社にすれば、解約返戻金を受け取って節税することが目的です。そもそも社員に保険金を渡す気などまったくありません。
ところが社員ががんに罹患すると気の毒という反面、受け取るつもりがないがん保険金が気になる経営者が多いのです。
・法人契約のがん保険金は巨額に。
節税目的のがん保険は、多くの場合複数社に契約があります。入院給付金も10万超えなど、尋常でない契約になっていることがあります。そのため給付金請求をすれば、保険金総額は数千万の巨額になる場合すらあり得るのです。
しかし保険会社指定の診断書を、医療機関に書いてもらう必要があります。がん保険金の請求をする場合は、社員に自分を被保険者にしたがん保険の存在を知られることになります。
なぜ会社が困るかと言えば、社員のがんが治癒するなら見舞金程度でお茶を濁すこともできます。しかしがん死亡などとなると遺族にがん保険金請求のための診断書をお願いするなど、なかなかできないところなのです。
保険金の帰属を巡る裁判になれば、会社が勝てる可能性が低くなります。それゆえに社員ががんに罹患すると、欲の出た経営者ががん保険金を受け取るために頭を悩ませることになります。
◆ 会社ががん保険金を受け取り、社員には見舞金で済ませるか。
社員が治癒するような場合、見舞金程度で済ませることはあり得ます。実際、福利厚生の仕組みとして、支給額を決めて付保規定を作成していると思います。中小企業では多くの場合、税務調査対応用ですから規定を従業員に周知しているとは限りません。
見舞金は世間の通念の範囲とするなら、せいぜい10万円が限度でしょう。それ以上出すなら、従業員の所得と見なされても仕方がないところです。
対象となる従業員の性格も問題になります。変な話ですが会社に協力的な従業員なら、多めに見舞金を渡して診断書をもらい口止めをしておくことになります。会社に非協力的な問題社員ががんに罹患した場合は、会社の規定通りの見舞金とし、保険金請求はあきらめることが得策です。
従業員ががんで死亡したような場合は、たとえ受け取れるがん保険金が巨額でも保険金請求は断念する方が安全かもしれません。
継続雇用の社員のケースでは、先走りした経営者が口止め料を含めた見舞金を300万渡すと伝えてしまったことがありました。これは見舞金の枠を越えて賞与です。継続雇用給付金が打ち切られ、翌年の年金額が大幅に減額されました。こういうケースでは安易な判断をせず、内緒で渡したいのなら経営者のポケットマネーで対応すべきです。
◆ 困惑するがん保険金の事例。
利益が出ていれば、複数の保険会社に昔の全損がん保険の契約があるのが普通です。出始めのころは入院給付金日額の制限がありました。しかし途中から青天井になり一人当たりの入院給付金日額が、複数社の契約で10万越えもあちこちで見かけました。
入院期間が短くなったと言っても10日入院で100万、診断給付金は千数百万、手術給付金が数百万、3社合わせて数千万という給付金額になることもあります。もうべらぼうです。がん死亡であれば、これにさらに数千万の死亡保険金請求権が発生するものもあります。
ただ、法人契約のがん保険は社員の知らない契約になっていることがほとんどですから、給付金や保険金請求は難しくなります。必ず保険会社指定の診断書をもらう必要があり、保険会社によれば被保険者(社員)同意の署名捺印が必要になります。社員に知られずに保険金請求をすることは、やはり不可能です。
法人保険にかかわっていると何度か出くわすいやな話が、がん保険金請求です。
◆ 各社の給付金請求書を請求してみました。
M社、N社、A社の給付金請求書の一件書類を請求しました。今は便利になっていますが、保険会社のWebサイトから項目を選択すると自社の条件にあった給付金請求書の一件書類が出力できるようになっています。
A社だけはサポートに電話して、法人の本人確認と保険証券番号、被保険者名、病名、入院期間と時期を確認し郵送となりました。会社の電話で病名等は言えないので別室での電話になります。
M社はWebサイトから出せるのですが、出力した診断書のピントがずれたように文字が見にくいのでサポートに電話して郵送を依頼しました。郵送の場合の方が、書類が多くて分かりやすくしっかりしています。返信用封筒も入っていますので便利です。いずれのサポートも申し込んだ翌日発送になるとのことですから、意外と迅速です。
給付金請求や必要書類は簡単ですが、診断書をもらう手はずは慎重になる必要があります。社員に聞かれても必要以上のことは答えられません。事務的に業務指示として、お願いするだけです。法人のがん保険の特殊性を説明しても、普通の社員に理解していただくことは期待できるものではありません。結局のところ、経営者や会社に忠実な社員以外は無理をしないことです。
◆ 法人契約のがん保険の死亡保険金請求は断念すべきか。
実際、法人契約のがん保険の死亡保険金請求は経験がありません。こればかりは難しい判断になると思います。経験された担当者がいらっしゃれば、話を聞きたいところです。
遺族にお願いして、事情を知られずに死亡診断書を取り寄せる必要があります。四十九日がすぎて落ちついたころになるでしょうが、なかなか難しい面がありそうです。
考えられるのは、事情を明らかにして死亡退職金の上乗せを条件に死亡診断書の取得をお願いするという手法です。ただ手の内を明かすとなると、相手によってはもめることも想定できます。裁判になれば、会社側が不利であることは間違いありません。
仮にうまくいっても、社内規定から大きく逸脱する例外を作ることにもなります。この手の情報の漏洩は、防ぐことはできないとしたものです。そうなるとやはり法人契約のがん保険では、死亡保険金の請求は断念して、解約返戻金で満足しておくべきところかもしれません。
◆ がん保険、法人の全損既契約、まとめ。
もはや全損で処理できる法人契約のがん保険はないですが、既得権としての全損がん保険はしぶとく生き残っています。従業員が高齢化すればがんに罹患するケースも当然増加します。その時、さて保険金を請求するか、思いとどまるかについて事例を交えて解説してきました。
もともと解約返戻金目的の保険ですから、保険金は余禄です。しかしこれが半端な大きさじゃないので、経営者の悩みはさらに深まります。
目の前にぶら下がっている給付金や保険金請求を、断念できる経営者はいないと思います。一般のサラリーマンより金銭に対する執着心が強いから、経営者になっているわけです。目の前にぶら下がっている大金を、みすみす見逃すような鷹揚な方はおられません。
・社員が保険会社に問い合わせれば、すべてを知ることに。
その結果、もめた例もあります。結局、被保険者は自分の体にかかっている保障額を知る権利は当然ありますから、被保険者が保険会社に確認すると保障内容は全部暴露されます。暴露は言い過ぎですが、被保険者が意図すれば保障を知ることは容易です。
その例では保険料払込免除になった契約そのものを、退職金代わりに個人に渡しました。ゆえに何度でも申し上げたいことは、欲得もほどほどにして、よくよく被保険者の忠誠心を見極めた上で、判断されるようお願いしたいと思います。
中小企業では資金繰りが逼迫すると、なりふり構わずがん保険金請求に走る場合もあるのではないかと思います。かならずしも社員とトラブルになるとは限りませんが、口止めは難しいとお考え下さい。またこういうことは、公平に処理できるものでもありません。相手を見極めて納得させて落としどころを考えて下さい。
もともと解約返戻金が目的ですから、欲を出すと問題も出てきます。基準はありませんので、ケースバイケースで慎重にご判断下さい。
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