遺贈と贈与・相続人と受遺者の違い、ここを具体的にくわしく。
いろんなサイトに遺贈と贈与・相続人と受遺者の違いがかかれています。しかし何度読んでもすっきりわからない、不思議な感覚が残ります。もう少し普通の人間がすんなり理解できる説明は、できないものかと思案しました。言葉の意味や権利関係はその通りなのですが、要するに何が違うのかわからないのです。素人がすんなり理解しやすい説明にチャレンジしてみました。
自分が分かっていないのに人に説明できるか、と言われればまったくその通りです。しかし遺言書の記事を発信している立場で、遺贈と贈与・相続人と受遺者の違いが分からないと、さすがに無責任の誹(そしり)をまぬかれないと思います。
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◆ 遺贈と贈与の違いを具体的に。
贈与は何となくわかります。あげる人ともらう人があり、双方の合意で贈与が成立します。もらう人がいらないと言えば贈与にはなりません。贈与とは「金銭や物品を贈り与えること。」平たく言えば合意にもとづくプレゼントです。
固いことを言えば、贈与とは、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える行為であり、契約の一種です。
「遺贈する」と「相続させる」は似て非なるものです。遺言書を書く場合、相続人には必ず「相続させる」相続人以外に財産を分けける場合は「遺贈する」と書けば間違いありません。
また遺贈とは、遺言により人に遺言者の財産を無償で譲ることです。遺贈は遺言者の単独行為であり、もらう人の合意を必要としない片思いです。この点が契約である贈与や死因贈与と異なる点です。
(死因贈与とは、遺言書とは別に贈与者の死亡を原因として贈与が発生する契約ですが、これまた奥が深いので後日別の記事で書くことにします。)
よくわからないのが遺贈です。遺言によって、財産を贈ることとなりますが、相続人に「相続させる」のではなく相続人に「遺贈する」こともできます。相続人に遺贈すると、権利が制限されてよいことはないのですが、それでも遺贈と書いて間違いとは言えないのです。しかし、相続人に対しては遺贈とは書かないことがトラブルを減らすポイントになります。
◆ 「相続させる」のは推定相続人、それ以外は「遺贈する」。
遺言者は遺言書で相続人に対して「相続させる」と書けば何の問題もありません。相続人以外に相続させる場合は、そもそも相続権がある立場ではないので「相続させる」と書くことはできません。相続人以外に財産を残す場合は「遺贈する」と書かなければなりません。
愛人や世話になった方、法定相続人ではない甥や姪、信心しているお寺さんなどに財産を残す場合に「遺贈する」と書きます。
ただ、相続人に対して「遺贈する」と書くことも間違いではありません。しかし相続人が受遺者になり、権利が制限されるというデメリットが発生しますので、相続人に対しては「相続させる」と書くことが正しいと言えます。
くどい話で失礼しますが、法定相続人以外に対しては「遺贈する」としか書けませんが、法定相続人に対しては「相続させる」「遺贈する」共に書けるということになります。ですが、法定相続人に対しては「相続させる」と書くことにメリットがあります。
法定相続人以外に対しては「相続させる」と書けば、明らかに間違いです。でも一般的には「遺贈する」の間違いであると解することはできます。ややこしいことになる可能性もありますので、間違いないように「遺贈する」と書くことが大事です。
ここをしっかり区別して遺言書を書かないと意味をなさなかったり、無効な遺言書とされたりする可能性が残ります。角度を変えて言うと「相続させる」で財産をもらう人が相続人、「遺贈する」で財産をもらう人が受遺者となります。相続人と受遺者では立場が異なり、権利関係が異なりますので受遺者となった方は注意が必要です。
◆ 相続人と受遺者の権利の違いは大違い。
相続人と受遺者は、相続が発生すると財産をもらい相続税を払うという点では同じですが、立場の違いからくる権利には大きな違いがあります。
相続人は無条件に強い権利があります。しかし受遺者は何かと制約があり弱い立場になります。
受遺者が相続人ではない第三者のときの相続税は、同じ遺言者から財産を受けた他の相続人と共同申告を行う必要があります。さらに相続人でない受遺者の相続税は2割加算されます。もともと法的には権利がないところを、棚ぼたで受遺者になったわけですから致し方ありません。
不動産の登記手続きでも「遺贈する」でもらった受遺者はデメリットがあります。相続人であれば「相続させる」という遺言さえあれば、単独で所有権移転の登記申請ができますし、債権者にも相続人の権利を主張できます。
ところが受遺者は、同じ遺言者から財産を受けた相続人全員と共同で所有権移転の登記をしなければなりません。そうなると第三者に財産を分けたくない相続人が協力してくれないという、争族の構図になります。協力が得られなければ登記手続きは暗礁に乗り上げてしまいます。
田舎では農地の売買には厳しい制限が設けられており、農業委員会なる組織が役場の中に暇そうに鎮座しています。実は農地の登記には農業委員会に認可を受けて証明をもらう必要があるのですが、受遺者が非農家であれば許可がおりないという可能性もハードルになります。
他にも借地権・借家権の取得でも相続人と受遺者では権利が異なります。受遺者では賃貸人の承諾が必要になりますが、相続人は不要です。このように相続人と受遺者では立場がことなり、権利関係がかわります。受遺者になったばかりに他家の相続争いに巻き込まれるということもあるわけです。
◆ 遺贈と贈与・相続人と受遺者の違い、まとめ。
遺贈と贈与だけでもややこしいのですが、相続人と受遺者という区別も混乱を招く要因になります。そこに死因贈与までからんでくると日常的に関与していない一般人にはわかりにくくなります。相続関係の言葉を整理しただけで、理解できるものではありません。
ここまで見てきたように、遺贈や受遺者・相続人は法律用語として権利関係が明確に規定されています。普通の遺言書であれば、多くの場合配偶者と子だけが法定相続人になりますから「相続させる」の一本やりで何の問題も起こりません。
昨今では、核家族の先におひとり様相続ということも見えてきます。そもそも両親が他界し、子もいないという場合の遺言は、兄弟や甥姪に財産を残したくなければ第三者に「遺贈する」ということになります。
ただ「遺贈する」ということばから受遺者が生まれるわけですが、相続人にとれば自分の取り分が減ることになります。そうなると遺言とはいえ素直になれない方もいらっしゃいます。ましてや遺言が公平に書かれているわけはないですから、遺言の内容に不満があれば受遺者に協力する気になれないこともあると思います。金に困っていなければ、受遺者は相続人との面倒を避けて遺贈を放棄することもできます。
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