恐怖の質問検査権、税務調査で電帳法改正の狙いが明らかに。
税務書類の保管ルールを一新する、改正電子帳簿保存法の施行が令和4年(2022年)1月1日に施行されました。その後、条件が緩和され2年間の宥恕期間が設けられました。
しかしそれも2023年末をもって終了しました。翌2024年1月1日からは、電子取引のデータ保存が完全義務化されています。
まだ対応が完全には終わっていない中小企業があるものと思います。これが施行されると、税務調査はどう変わるのでしょうか。検索機能などの対応がきちんとできていないと、調査官による帳簿のダウンロードが要求されるなど、情報の全開示となりそうです。
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◆ 税務調査の駆け引きが通用しなくなる全開示。
本来開示する必要のない情報まで、税務署に収集されるかもしれないという不安があります。実質的には、調査官の質問検査権が強化されたことに他なりません。
税務調査とは、限られた時間内での調査官との駆け引きです。情報が全開示されたのでは中小企業の会計・財務は丸裸にされます。持ち帰っての調査分析となれば、調査時間が無制限となり、不利な税務調査を受けざるを得ないことになります。
スピード違反の取り締まりでたとえれば、全路線レーダー取締りのようなもので、まともに走れません。実際どうなるのでしょうか。
また調査官の質問検査権とは、税務調査において納税義務者に対し、質問や帳簿書類などの検査、提示、提出などを求めることができる権利のことです。 質問検査権は、国税通則法第74条の2~6において、調査官の権利として認められています。
◆ 拒否できない質問検査権の恐怖。
税務調査は基本的に任意調査です。国税査察部が予告なしで乗り込んでくる強制捜査もありますが、よほど悪質でない限り事前に納税者へ連絡し、調査宣言をしてから実施されます。
■脱税は犯罪、保険で儲けてもマルサは突然やってくる、冷や汗体験談。
ところが任意調査と言いながら、拒否することはできません。納税者の同意に基づき実施される税務調査とは言いながら、お断りできないなら実質的な強制捜査というべきところです。
また国税調査官は質問検査権という、意味不明な権限を付与されています。質問に対して答えるかどうかは納税者の都合のように思いますが、それが許されないのが質問検査権というわけです。要するに言い方はやわらかいですが、取り調べと同じです。納税者は国税調査官の質問に対して、黙秘や虚偽の回答をしてはいけません。
・受忍義務という足かせ。
犯罪者でも黙秘権がありますが、納税者にはそれもないばかりか個人情報まで隠すことが許されません。これを税務調査に協力しなければならないという、質問検査権に基づく受忍義務があるとされています。
任意調査と言いながら受忍義務という足かせがはめられた税務調査なので、残念ですが従わないわけにはいかないのです。
国税通則法第127条
次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
二 第七十四条の二、第七十四条の三(第二項を除く。)、第七十四条の四(第三項を除く。)、第七十四条の五(第一号二、第二号二、第三号二及び第四号二を除く。)若しくは第七十四条の六(当該職員の質問検査権)の規定による当該職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による検査、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施を拒み、妨げ、若しくは忌避した者
三 第七十四条の二から第七十四条の六までの規定による物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出した者
「正当な理由なくこれに応じず」とありますが、納税者にとれば正当な理由でも調査官の側からすれば正当な理由ではないと判断されることも往々にしてあります。
立場が違えば見解の相違があるのは当然だと思いますが、そういう理屈は通用しません。
任意調査と言いながら強制的な質問検査権があり、受忍義務で押さえこむだけでなく、抵抗すれば罰則規定まであるわけです。これはマルサのように、勝手に金庫を開けたり壁をはがしたりしないだけで、強制捜査と大差ありません。
一方では国税通則法で以下のように定めています。
国税通則法 第74条8(権限の解釈)
「第74条2の規定による当該職員の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してならない。」もしも、この法律に違反するような調査が行われた場合、憲法35条(住居侵入、捜索及び押収に対する保障)及び憲法38条(自白の不強要とその証拠能力)に違反することとなりますので、憲法違反の基に行われた税務調査は無効となります。
権限の解釈では、納税者の立場も考慮しているように見えますが、現実はそれほど甘くありません。オオカミに狙われたあわれな羊のようなもので、抵抗するすべもありません。電子帳簿保存法の改正により、丸ごとデータをダウンロードすると言われても受忍するしかないということになります。
国税庁の口車に乗って国税関係帳簿書類を電子データで保存すると、税務調査で要求された関係資料をコピーしながら小出しにするような手は使えないと言うことです。その結果、質問検査権は電子簿保存法の改正によりさらに強化されたと考えるべきです。
◆ 改正電子帳簿保存法2022年1月施行、何がどう変わる。
これまでの電子帳簿保存法は、自社には関係なしとして無視しておけばよかったのですが、もはや改正電子帳簿保存法は中小企業であっても避けて通ることができません。
電子取引のデータ情報は、必ずデータのまま保存しなければなりません。紙にプリントアウトして保存しても、無効だというわけです。
それどころか国税関係帳簿書類をデータで保存する場合、一部でもダウンロードを拒否すれば青色申告承認取り消しなどの罰則があるというのです。アナログ経営者にとれば、課税当局のやり口としては、ずいぶん勝手な方針転換に見えると思います。
最近はオンラインでの取引としてWebEDI(電子商取引)やメールを活用した受発注システムなど比較的進んだ仕組みもあります。電気料金の請求書がWebから取り出すようになっていたり、注文書や契約書はメールの添付ファイルでのやり取りであったりが普通です。それもこれもみな今回の対象となる電子取引データというわけです。
となればPCやメールを利用していれば、どこの会社にもいくばくかの電子取引はあると思われます。時代が変わり、お上の方針としては、電子取引の紙ベース保存は不可であり、神(紙)に見放されたアナログ人間はもはや無用ということのようです。
・スキャナ保存の制約が大幅緩和
紙で保存しておかないとどうも頼りなく心配という気持ちは、年配の経営者に多いと思います。スキャナ保存とは、書類をPDF化したり撮影して画像化したりすることで保存しやすくするというものです。
便利な反面、改ざんの心配や作成時期が不明ということも起こりますので、タイムスタンプなどの改ざん防止が必須になります。
今回の改正では、スキャナ保存にかかる厳しい要件が大幅に緩和されて使いやすくなっています。
ここではくわしくは触れませんが、税務署の事前承認の廃止、タイムスタンプ付与期間が延長、受領者の自署不要、適正事務処理要件(相互牽制、定期検査要件)がなくなりました。
それじゃ今までの厳格な規制は何だったのかという議論が起こりそうですが、その代わり罰則が強化されたというわけです。
どこかの会計ソフトのクラウドに契約すれば、訂正や削除履歴が残りますから、タイムスタンプの代わりになるそうです。紙の原本とスキャナ保存したデータとの一致を確認する必要もなしになりました。
その分、税務調査での踏み込みも、かかる時間も短縮できるということのようです。電子データの便利なところである検索機能は、そのまま税務調査を受ける方にリスクとなってきます。
税務調査では、統括官が勘定元帳を繰りながら、指示を出します。検索すれば即刻わかりますから、依頼された資料をゆっくり探すような、時間稼ぎができなくなりました。
◆ ダウンロード拒否で青色申告承認取り消しの墓穴。
今回の改正電子帳簿保存法では、罰則が強化されています。ややこしいい言い回しですが、国税庁の通達では「職員の求めのすべてに応じた場合」に限り電子データの提出があったとみなすとあります。
質問検査権を盾に要求されると調査を受ける納税者が側は、実際打つ手がなくなります。
これは国税調査官に逆らえば、電子データは国税関係帳簿書類とみなさないということです。法定要件を満たさないとされると、罰則規定の適用となるとおどかしているわけです。
罰則規定とは青色申告承認の取消です。
青色申告には多くのメリットがあります。青色申告特別控除は「最高65万円」だけでなく損失の繰越しや繰戻しをすることができます。
さらには貸倒引当金を計上できますし、青色事業専従者給与を必要経費にできることもメリットです。ダウンロード拒否で罰則としてこれらの権利が失われるというわけです。
また正当な理由なく資料の提出を拒否した場合には、一年以下の懲役または50万円以下の罰金を科すと定めています。
相手は成果に飢えた国家権力ですから、正面切って逆らわないに越したことはないのですが、往々にして見解の相違ということもあります。
どこの企業にも会計にも、それなりの事情があります。質問検査権と言えども、それをそっくりデータ丸ごとダウンロードは、さすがにご免被りたいところです。
◆ 質問検査権の恐怖と電子帳簿保存法の狙いまとめ。
狙いがよくわからない電子帳簿保存法の改正です。しかし、しぶしぶでも運用していく他ありません。
保存するデータは多くの場合巨大、過去数年分と言えばギガバイトではなくテラバイトとなることが予想されます。ダウンロード時間は長い可能性があります。
またパッケージの会計ソフトを使用していればクラウドの契約などで打つ手はありそうですが、エクセルなどで会計ソフト無しの場合、元帳データはどうするかという問題も残りそうです。
・国税調査官のメリットは納税者のデメリット。
またデータ化すると検索という手は使えますが、モニターでは紙に比べると一覧性に劣るのでかえって調査は手間がかかるような気もします。
電子帳簿保存法の改正により、メリットがあるかどうか、両面性がありそうです。税務調査では、調査官のメリットは納税者のデメリット、納税者のメリットは調査官のデメリットとなります。
あわてて国税関係帳簿書類をすべて電子保存すると紙ベースで保存するスペースは空きますが、税務調査でぼろを出さないとも限りません。
ここは電子取引データだけ電子保存で、任意選択の国税関係帳簿書類はこれまで通り紙ベース保存という手も選択肢です。
すべてが電子データに移行すると、調査する側もされる側も慣れない電子データから問題点を見つけ出す作業が必要になります。ここはとことん受忍義務に徹して協力的な姿勢を見せないと、優良申告法人と言えども、お目こぼしなしの徹底調査になりそうです。
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