相続で遺留分の放棄をさせることはできるか、その意味と手続き。

相続で遺留分の放棄をさせることはできるか、その意味と手続き。

経営者にとって事業承継は、相続設計以上に重要なことです。

自分が苦労して発展させた会社を、一番適任な子に継がせて守り発展させてほしいという思いがあります。兄弟が何人かいると、会社を継ぎたくない子もいます。同時に継がせたくない子もいます。そんな中から一人を選び、次期経営者として仕込んでいかなくてはなりません。

今回の記事のキーワードは「遺留分放棄」です。後継者以外の子に遺留分放棄させることができるかどうかを考えている、高齢の経営者がペルソナです。

経営者の遺留分放棄にかける思い。

「後継者以外の子に遺留分放棄をさせたい経営者、これまで後継者以外の子には十分な特別受益を与えているので、相続では相続放棄させたいが、できれば自分の生前に遺留分を放棄させて、後継者への事業承継を安泰させたい。遺留分放棄と言うことが仕組みとして適用可能かどうか、どういう手続きが必要か知りたい。」

◆ 遺留分放棄と相続放棄。

自社株を親族で分散保有したために苦労した経験のある経営者は、一人の後継者に自社株を集中したいと考えます。また後継者となる子には、経営者としての一定の資産を継がさなくては重石がつきません。

そうなると後継者以外の子に対して、最低限の相続にするために遺言書をしっかり書かねばなりません。これまでにも遺留分代わりに家を建ててやったり、保険契約を渡したりしていますから、遺留分の放棄もさせておきたいところです。

遺留分放棄とは、被相続人の生前に行う相続放棄のようなことです。相続放棄との違いは、放棄している内容が遺留分だけという点です。相続放棄は、相続権そのものを放棄しています。しかし遺留分放棄は、相続権まで放棄していないという点で違いがあります。

遺留分放棄を苦心惨憺取り付けても、被相続人の死後相続権を主張されれば相続権は有効となります。そんなはずはないという経営者もおられるかもしれません。どうも趣旨がかみ合っていない遺留分放棄ですが、遺言書で指定しておくことが後でもめない要諦です。

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◆ 遺留分放棄とは。

本来相続人には、法定相続割合で相続権が認められています。その権利をたとえば遺言書で侵害されるようなことがあっても、その権利の半分である遺留分は奪うことができません。

遺留分侵害額請求が、相続人の権利として認められています。相続人本人の意思で相続放棄をすれば、遺留分の権利を放棄したことになります。遺留分放棄とは、相続人に認められた最低限の権利である遺留分を相続が発生する前に放棄する手続きです。

遺留分放棄をさせておかないと、遺言書で遺産の分割を指定しても遺留分は遺言書でも侵害できません。他の兄弟から遺留分侵害額請求を起こされる可能性があります。

遺留分放棄という仕組みも、納得していない子には適用できません。

◆ 遺留分放棄の要件と必要書類。

一般の相続では借金が多い場合、相続放棄はあります。しかし遺留分放棄となると事業承継が関係する相続など、特殊なケースに限られると思います。

相続人に遺留分放棄をさせるためには、納得させるだけの十分な代償(特別受益)を生前に与えていることが必要になります。遺留分放棄は、相続人本人の意思にもとづくものでないと認められませんので、その点は注意が必要です。

また、手続きとして被相続人の生前に遺留分放棄をするためには、家庭裁判所の許可を必要とします。家庭裁判所の許可がない、本人の念書があっても効力は認められません。

審判の条件としては下記内容が審査されます。

① 放棄が本人の自由意思にもとづくものであるかどうか。

② 放棄の理由に合理性と必要性があるかどうか。

③ 代償性があるかどうか(たとえば放棄と引きかえに現金をもらうなど)。

・遺留分放棄の許可申立の必要書類。

被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所へ相続人本人(遺留分権利者)が申し立てます。決して親である被相続人ではありません。

必要書類は結構手間がかかります。親が財産目録を作り、不動産の登記簿をあげて目録に追加しておく必要があります。戸籍謄本は役所で入手できます。「家事審判申立書」を書いて必要書類を揃えます。

・家事審判申立書

・不動産・現金・預貯金・株式などの財産目録

・被相続人(親)の戸籍謄本(全部事項証明書)

・申立人(相続人)の戸籍謄本(全部事項証明書)

後継者ではない子に遺留分放棄をさせることは、違法ではありません。でも本人の納得性がなければ、家庭裁判所が認めないということです。

親は十分説明して納得させたつもりでも、遺留分放棄する子にとれば、面従腹背で渋々従っているかもしれません。そういう場合不当な干渉がなかったとは言えないと、家庭裁判所が判断する可能性があります。

◆ 遺留分放棄、まとめ。

後継者でない子が納得している話なら、相続開始後でも特に家庭裁判所の審判なしで遺留分放棄はできますし、相続放棄もできます。要するに、後継者ではない子が十分な特別受益を自覚していれば、遺留分放棄をさせなくても遺言書に従うでしょうから特に問題はないわけです。

しかし後継者でない子が財産分与に納得していなければ、いくら遺留分放棄の制度があってもどうしようもないという、まったく様にならない結論になります。

思惑どおりにならない遺留分放棄ですが、会社を守るため決断するのもオーナー経営者の仕事です。

相続相談は遺言信託か税理士法人かに決着。

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