
事業承継の相談をしていると、経営者からよく聞く言葉があります。
「うちは自社株の贈与が終わっているから大丈夫。」と言われます。
確かに自社株贈与は事業承継の王道です。
株価対策を行い、相続時精算課税制度や暦年贈与を活用して
後継者へ株式を集中する手法が多く取られます。
経営権を承継するという意味では、非常に有効な方法です。
法人保険営業をしていると、自社株贈与が終わった瞬間に、
営業の糸口がなくなるケースがあります。
ところが私は、この「もう大丈夫」という言葉を聞くと逆に気になります。
本当に大丈夫でしょうか。
実際には、自社株贈与が終わってからの方が、厄介な問題が
潜んでいることがあります。その一つが遺留分です。
さらに言えば、自社株評価の高騰という経営者にとって喜ばしいはずの出来事が、
後継者の首を絞めることさえあります。
今日は少しマニアックですが、法人保険営業の切り口にもなる
除外合意について考えてみます。
◆ 自社株贈与をしても安心できない理由。

事業承継では後継者へ自社株を集中します。
会社の経営権を守るためには当然です。
ところが会社が順調に成長すると、自社株評価は上昇します。
本来なら喜ぶべきことですが、相続になると話が変わります。
遺留分の計算では「特別受益の持ち戻し」という考え方があります。
昔の安い株価で贈与した自社株が、現在の高い評価額で計算対象になる
可能性があるのです。
後継者は会社を成長させるために努力し、利益も出したと言うことになると
当然、株価も上がります。ところが、その成果によって、遺留分問題が
大きくなるということがあります。
何とも皮肉な話ですが、苦労して事業承継した結果が、
自分の首を締めることになるのです。
私はこの構図を説明すると、経営者の表情が変わる場面を何度も見てきました。
経営者にとれば「そんなことになるのか。」そう思う方は少なくありません。
◆ 遺言書だけでは不安が残ります。

もちろん対策がないわけではありません。
旧経営者が遺言書で、特別受益の持ち戻し免除の意思表示をする方法があります。
実務上もよく使われます。
ただ私は経験上、遺言書だけで安心し切るのは少し危険だと思っています。
相続が発生したときに全員が納得していれば問題は起きません。
そうは簡単にいかない問題は、人間関係です。
相続人同士の感情が絡み始めると話が変わります。
親が生きている間は何も言わなかった兄弟姉妹が、
相続になった途端に権利を主張することは珍しくありません。
さらに厄介なのは相続人本人より周囲です。
配偶者だったり、知人だったり、相談した専門家だったりします。
相続人本人は争う気がなくても、「それだけもらえるなら請求した方がいい。」
と言われれば心が動きます。
相続は理屈だけではありません。感情の問題でもあります。
◆ 除外合意という最後の安全装置。

そこで出てくるのが除外合意です。正式には遺留分に関する民法の特例です。
後継者に贈与した自社株について、遺留分算定の対象から除外する制度です。
経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要になりますから、
決して簡単な手続きではありません。
しかし会社を守るという意味では極めて強力な手段です。
私は除外合意を「事業承継の安全装置」だと思っています。
自社株贈与がアクセルなら、除外合意はブレーキです。
経営者はアクセルばかり踏みたがります。
ところが本当に重要なのはブレーキの方なのです。
◆ 除外合意が難しい理由。

理屈は簡単ですが、ところが実際は難しいのです。
なぜなら後継者以外の相続人から見れば、自分の権利を減らす話だからです。
気持ちよくハンコを押してくれるとは限りません。
むしろ押したくないのが普通です。
経営者は会社を守りたいと考えます。後継者は経営権を守らなくては、
責任が果たせません。
しかし後継者以外の相続人から見れば、自分の取り分が減る話です。
立場が変われば見方も変わります。ここに事業承継の難しさがあります。
私の経験では、相続人本人より、その周囲の人の方が熱心になることがあります。
相続人は『もういい』と思っていても、配偶者や親族から『それで納得するのか』
と言われれば心が揺れます。
相続とは財産の問題であると同時に、人間関係の問題でもあります。
◆ そこで生命保険が生きてくる。

私は法人保険営業として、この場面に生命保険の役割があると思っています。
除外合意に応じてもらうためには、後継者以外の相続人にも納得材料が必要です。
その一つが生命保険です。旧経営者を被保険者として契約し、代償として
後継者以外の相続人を受取人に指定するという手法です。
生命保険金は受取人固有の財産として扱われます。
遺産分割協議を経ずに受け取ることができます。
つまり会社は守りながら、後継者以外の相続人にも一定の配慮ができるわけです。
もちろん生命保険だけで全て解決するわけではありません。
しかし感情を和らげる効果はあります。
相続対策では法律論だけでなく、人の気持ちをどう整理するかも重要なのです。
◆ 法人保険営業の切り口。

正直に言えば、除外合意を知っている経営者は多くありません。
検索する人もほとんどいないでしょう。
しかし営業とは相手が知らないリスクを伝える仕事でもあります。
「保険に入りませんか。」から入ると断られます。
ところが、「自社株贈与は終わっていますか。」「株価は上がっていますか。」
「遺留分対策はされていますか。」
という話になると経営者の反応は変わります。
節税保険が難しくなった今、法人保険営業は切り口を変える必要があります。
除外合意などというキーワードを検索する方はほとんどないと思いますが、
そこにチャンスの芽があると言えます。
事業承継や遺留分、自社株評価や除外合意などのテーマは、
保険を売るための直接のネタではありません。
経営者が気付いていないリスクを発見するための材料です。
その結果として生命保険が解決策になることはあります。
しかし順番は逆です。
保険を売るためにリスクを探すのではありません。
リスクがあるから保険という選択肢が出てくるのです。
◆ 遺留分と除外合意、まとめ。

会社を守るための対策として行った自社株贈与の安全圏は除外合意です。
自社株贈与は事業承継対策として有効です。
しかし自社株評価が高騰すると、遺留分問題という別のリスクが生まれます。
遺言書に特別受益のもち戻しの免除を書いておいても、自社株が高騰すれば
遺留分の侵害になるという経営のジレンマがあります。
遺言書だけで十分な場合もあります。
それでも会社を守ることを最優先に考えるなら、
除外合意という選択肢があります。
相続は法律だけで決まるものではありません。
最後はそこにかかわる人間関係です。
私は長く法人保険に関わってきましたが、相続人本人より、
その周囲の人間が話を複雑にする場面を何度も見てきました。
だからこそ、元気なうちに準備することが大切です。
除外合意は検索需要のあるテーマではありません。
しかし経営者にとっては会社の未来を左右するテーマです。
そして法人保険営業にとっては、まだ誰も気付いていない提案の
入口になる可能性があります。
■事業承継が失敗する原因を体系的に解説したページ
→事業承継が失敗する本当の理由|経営権・感情・生命保険の関係。
「自社株贈与の落とし穴|遺留分と除外合意から考える生命保険活用法。」への1件のフィードバック