相続手続きに非協力的な相続人の本音。
相続税がかかる場合の相続では10カ月以内に遺産分割協議をまとめなければ相続税の申告ができないので、相続人となった人は非協力的でも否が応でも相続に巻き込まれざるをえません。
ところが相続税がかからない場合は、不動産の登記も含めて一次相続の遺産分割協議は先送りされることがよくあります。
もともと売買もできない資産価値の低い土地は相続しても固定資産税がかかるだけで困りものですから、慌てて所有権移転登記をする必要もないわけです。
そうして何代にもわたり相続時に所有権移転登記がなされない結果、所有者不明土地問題につながりました。相続時に価値があるのは現金または換金性の高い資産であり、換金性の低い田舎の土地屋敷は相続人に敬遠されます。様々な事情が絡み合い不信が重なると相続に非協力的な相続人の登場です。
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言を受けての休業要請に抵抗して、営業を続けるパチンコ屋のように、相続に非協力的な相続人にもそれなりの言い分があります。
クリックできる目次
◆ 時間が経つと考えが変わる相続人。
相続税に申告期限があるため、相続に非協力的な相続人も巻き込んで遺産分割協議は強引に進んでいきます。この時点ではまだ親の意向や威光が残っていますから、相続人にとっても遺産分割協議は円滑とはいかないと思いますが、期限までに妥結するしかありません。
ところが相続税がかからない場合は申告期限の10カ月に縛られませんから遺産分割協議は無期限となります。当面のお金に困っていなければあえて一次相続では争族になりがちな遺産分割協議をせずに先送りするケースが多くあります。
先送りすると厄介な問題が起こることがあります。本来、まとまる話がこじれるようになることが往々にしておこります。それは相続人も人間ですから、時間がたつと経済状況や考え方が変わるからです。
相続税がかからないケースほどややこしい相続になるのは、この辺に原因があるように思います。二次相続までの間に金銭援助や親の介護などがあると相続はさらにややこしくなります。
◆ 非協力的な相続人の胸の内。
いまや交通網の発達で相続人は日本中に散らばっています。疎遠になっている相続人もいます。それぞれに忙しい日々の生活を抱えていると相続のことを考えるのは後回しになりがちです。信用しないわけではないですが、よく理解できない遺産分割協議書に実印を押す気になれません。
納得できるよう説明がしてほしくても疎遠になっていると、連絡するのも問いただすのも億劫になります。多くの非協力的な相続人はそんなつもりがなくても消極的に対応するだけで誤解を受けてしまいがちです。
また相続人同士の仲が良いとも限りません。人には好き嫌いがあります。親族の仲にも気の合う相続人とそうでない相続人がいます。距離と時間はますます疎遠感を深くし、お互いの疑心暗鬼が事態を深刻にします。
◆ 相続で見えない生命保険と内緒の保険。
また重要なことですが、相続財産の目録を作成しないと生命保険が見えてきません。被相続人が契約していた生命保険は、相続税の申告をしなければ見えてきません。保険金は受取人固有の財産ですが、相続税の対象になります。
相続税を申告する必要がなければ、被相続人死亡で受取る死亡保険金は他の相続人に知られずに受取ることが可能です。生命保険に限らず、財産評価は見解の相違があり、相続に非協力的な相続人の疑念は、こういった不信感もあり尽きることがないのも無理ないところなのです。
◆ 相続税がかからない二次相続の混とん。
一次相続で遺産分割協議を先送りすると二次相続になったとき話がこじれやすくなります。これは実感ですが、二次相続という状況は両親ともに他界し重石がなくなったなかで、残された兄弟姉妹で遺産分割協議をまとめなくてはなりませから、それぞれ別の生活基盤を持つ兄弟姉妹が合意するにはかなりハードルが高くなります。
兄弟は他人の始まりと言いますが、仲の良かった兄弟姉妹が相続の話からギクシャクし始めるのです。一次相続で登記していなかった不動産も固定資産税の支払いを引き継がなくてはなりませんから、改めて引き継ぐ相続人を決めなくてはなりません。
相続人がお互い欲しい財産はキャッシュや株式、生命保険契約です。相続税がかからないレベルだと一般的には、換金性の高い不動産はほとんどなく固定資産税だけが重荷になるような、それも売れない不動産が譲り合いになります。田舎相続の田畑の譲り合いとなると、登録免許税や固定資産税がかかる耕作放棄田や老朽化した田舎住宅を引き継ごうとはだれも思いません。そうなると二次相続はますます混とんとしてきます。
◆ 疎遠な相続人の扱い方。
日ごろから行き来がなく疎遠になっている相続人でも、相続を完結させるためにはパスしたり無視したりすることはできません。一人でも実印を押さない相続人がいれば、登記はもちろんのこと相続手続きを行うことはできません。何度、連絡をしても無視したりする相続手続きに非協力的な相続人がいると、こればっかりは何とか納得してもらわないと手続きが滞ってしまいます。相続に非協力的な相続人の3つの落とし方を下記にまとめました。
1)相手の価値観で相続を考えてみる。
相続に非協力的な相続人の立場で考えてみることをおすすめします。公平な立場でジャッジしているつもりでも立場が変われば価値観が変わります。相手の価値観で考えることは難しいのですが、譲るところは譲らないと落としどころが見えてきません。こちらの進め方に納得できなかったり、財産目録や評価方法に疑問点があったりするものです。
2)相手の言い分をとことん聞く。
相続人同士の話し合いは、相続に関する限り最終的には金銭の取り分の話に行きつきます。いくら話し合っても容易に納得できるものではないのですが、それでもお互いの言い分を主張することから始めるしかありません。しかし疎遠な相手にはこちらの言い分は後回しにして、非協力的な相続人の言い分を本音で言うまでとことん聞くことが必要です。そうすることで折り合うヒントが見つかることがあります。
3)第三者に調停を依頼する。
相続人同士ではお互いの利害や感情、これまでの経緯が絡み合い話し合いはまとまりにくくなります。理路整然と冷静にはなしあうことが、そもそもできない関係になってしまいます。
そういう時は費用がかかりますが司法書士などの第三者に橋渡しをお願いすると非協力的な相続人も冷静に聞くことができます。相続税がかからなければ税理士の出番はありません。弁護士は依頼者の代理人であり、相続人誰かの利害を優先する仕事ですから本質的に調停には不向きです。
ですから相続登記も絡みますので経験豊富な司法書士あたりが適任のように思います。直接の利害関係者ではなく連絡役として手続きに必要な書類を作成する立場ですから、客観的な立場で説明することができます。
◆ まとめ
今回の記事は田舎の相続登記を前提にして、経験をもとに考察しています。
相続登記が進まないために所有者不明土地が増加し社会問題になっていますが、それを改善し相続登記をしやすくするために相続登記では登録免許税に関して時限立法ですが免税措置が適用されます。
相続というのは財産分割ですが、突き詰めると親の資産の山分けです。資産とは端的にお金ですから本音の奪い合いになるのも、生活に追われる相続人としては仕方がないところです。非協力的な相続人の本音を見てきたところですが、本当のところは本音をぶつけ合う前に、お互いが折り合うことが賢明と言えるでしょう。
本音を言い合ってしまうと、もはや人間関係の修復が難しくなります。もともと財産は不動産と現金が少々ということが多いと思いますが、現金を減らしてまで弁護士や税理士などの調整役を依頼するほどでもない相続では、もめ事を他人に知られたくない、内輪で治めたいという日本人独特の恥の文化があります。
遺産分割調停や審判にすすむと亀裂は決定的になります。それを望むわけではないのならもつれた感情の糸を丁寧に解きほぐし、冷静に忍耐強く話し合いで治める努力をすべきところです。
「嫌顔でも」ではなく、「否が応でも」ですよ。
foo@bar.example.com様
hokenfpです。
>「嫌顔でも」ではなく、「否が応でも」ですよ。
ご指摘ありがとうございます。
修正しました。
今後ともよろしくお願いいたします。