生命保険金を分けると相続税がかからなくても贈与税が。
生命保険金は、受取人の固有財産という考え方が定着しています。
それはある面では、相続でのもめごとを減らす効果があります。しかし一方では、固有財産であるがゆえの問題もあります。遺産分割協議などで公平を期するために、他の相続人と生命保険金を分けると贈与になってしまうのです。
そうなると相続税がかからない人にまで、贈与税が発生する可能性があるということがあります。
贈与税はあげた人ではなく、もらった人、受贈者にかかる税金です。生命保険金を相続人で分けると贈与税の可能性、そんな話を整理してみました。
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◆ 生命保険金は受取人の固有財産、でも相続税の対象。
生命保険金(死亡保険金)は、契約者が指定した受取人の固有の財産であることは判例が定着しています。相続が発生した時点で、生命保険金は受け取る権利が生します。
それゆえ指定された受取人固有の保険金と言うことになります。当然、他の相続人に分ける必要はありません。
固有の財産であるがゆえに、相続でもめる元になります。遺言書もなく相続のことを真剣に考えることもなく、保険営業に言われるままに適当に受取人を指定します。その結果として、残された相続人同士がもめる原因になります。
・受取人指定は遺言書より確実。
生命保険金の受取人指定をするということは、遺言書で指定するのと同じことです。それだけの保険金を、特定の相続人に渡すという意思表示なのです。安易に受取人を書いたり、受取人の分配比率を指定したりすると、納得できない相続人がでてきます。
相続とは、もともと公平なものではありませんし、そもそも公平にできるものでもありません。親の介護をした子や金で苦労している子、とくにかわいがった子がいます。逆に寄りつきもせず、介護もせず、金の無心だけ人一倍という欲張りな子など様々です。
遺産分割協議の対象から外れる生命保険金は、遺言書代わりに分割指定をすることもできるので便利な制度です。保険会社は、厳密に指定された受取人以外には絶対に払いません。完全な受取人の固有財産と考えてよいのです。しかし相続税がかかる場合は、生命保険金も相続税を免れるすべはありません。
◆ 契約形態により税額が変わる生命保険金。
ここは、腐るほど情報がネット上にあふれています。しかししっかり理解している方はほとんどいないという、摩訶不思議な生命保険金にかかる税金です。
生命保険金に関する税金は、いろいろなパターンを考えて贈与だ何だと考えることが無駄なのです。そういうサイトでは、しゃくし定規に書きますからややこしくなるだけです。
要は相続税パターンか一時所得パターンかの2種類だと考えればわかりやすいと思います。
・相続税パターン
親が契約者で被保険者、相続人が保険金の受取人です。
・一時所得パターン
子が契約者で親が被保険者、子である契約者が保険金の受取人です。
※契約者=保険料負担者、被保険者=体を提供している人
保険契約では、誰が契約者かということが大事です。契約者は保険料を負担している人です。契約者が受取人になれれば、自分で保険料を払って、なおかつ保険金を受け取りますから一時所得です。
でも契約者が受取人になれない場合がひとつだけあります。
そうです。契約者が被保険者である場合です。さすがに自分が死んで生命保険金を受け取れないので、相続人の中から受取人を指定します。
・三者三様は贈与税の対象に。
受取人指定の場合、例外的に生命保険では三者三様と言うパターンがあります。三者三様とは、契約者が父、被保険者が母、受取人が子というパターンです。
父親が保険料を負担し、母親の死亡保険金を子が受取れば、相続ではないですから父親から子への贈与になります。普通は、贈与になるような契約形態は避けますので、一般的にはないと考えてよいと思います。
もし間違って三者三様になっているなら、これは贈与税になりますから受取人の変更をご検討ください
くどいようですが、生命保険金は受取人固有の財産です。ただし相続税がかからないレベルの方であれば、生命保険金を相続で受け取って相続税も贈与税もかかりません。また一時所得のような所得税もかかりません。そのまま相続財産ということでもらっとけばよいのです。
契約者が自ら受取人になる場合は、相続税に関係ありません。払込保険料より多く受け取った生命保険金の儲けの部分が、一時所得となり所得税が課税されます。しかし特別控除額が50万円あり、一時所得の半分が所得税の対象になります。
言い換えれば一時所得の半分は非課税で受け取れるわけですから、これはお得になります。
◆ 生命保険金を相続人同士で分けると贈与税。
相続で受け取った生命保険金を他の相続人に分けると、相続税の他に贈与税がかかってきます。
おかしなことは、相続税がかからなくても、相続人が他の相続人に生命保険金を山分けすれば、本来の受取人から生命保険金の分け前をもらった人は、贈与税の基礎控除110万円を超えた分に贈与税がかかることになります。
たとえば2,000万の保険金を受取人が受取り、1,000万を他の相続人に渡せば1,000万-110万=890万に対して贈与税177万がかかります。
ただし遺産分割協議書に代償分割であることが記載されていれば、贈与とはならず贈与税の対象とはなりません。
相続税がかからないのに、分け方を変えるだけで贈与税とは納得しがたいところがあります。しかし、現実的には贈与となります。相続税がかからなければ、相続税の調査もないわけですから、言わなければわからないことですが。
◆ 相続税がかからないときに、生命保険金の受取不公平が深刻。
相続税がかからなければ、相続税の申告は不要です。そうなると相続人の内だれがいくら生命保険金を受取ったかは、言わなければわからないこともあります。
しかし実際は、保険証券や契約内容のお知らせがあると思いますから、他の相続人も知ることになります。
相続税の申告をする場合は、相続によって受け取った生命保険金を内緒にすることはできません。しかし申告不要の場合は疑心暗鬼・相互不信に陥る可能性があります。
明確に遺言書に書いてあれば、取り分が少ない相続人もあきらめるよりありません。しかしそれもないとなると、ますます見えない不公平感が深刻になります。
誰が親の生命保険を管理しているか、保険証券はどこにあるかが問題になります。当然親のそばで介護をしていた親孝行な子の方が、有利な立場に立つことになります。
兄弟で半分ずつの受取りにしていた保険金を、自分に有利に変更させることもできるかもしれません。生命保険の受取人変更は、いつでも簡単に契約者の意思があれば可能です。
・期末誤差が終末誤差に。
人事評価で言うところの「期末誤差」という考えがあります。期末誤差とは、評価期間内のうちで最後の方の印象が、最終評価に強く現れてしまう現象のことです。人生の終末誤差で、生命保険金の受取人が変わり不公平になるということもよくあることです。
親にしてみれば、人生の最後の心細い時期に世話になった子に多く渡したいのは人情というものです。その結果が相続人同士のいがみ合いや縁切りになったのでは、救われないところです。
相続での公平とは何か、長い目でもう一度見直し考えてみるとよさそうです。
◆ 生命保険金を分けると贈与税、まとめ。
相続で代償分割でもないのに生命保険金を分けると、贈与税がかかるという話から、人生の終末誤差まで踏み込みました。しかし生命保険金の受取不公平を解決する提案には、至っていないと思います。
以下にポイントを再度整理しました。
・相続税がかかる場合
相続で生命保険金を受取ると相続税
生命保険金を他の相続人と分割すると別に贈与税
代償分割であれば贈与税無し相続税のみ(遺産分割協議書に記載が条件)
契約者(相続人)が保険料を負担している場合、一時所得として所得税
・相続税がかからない場合
相続で生命保険金を受け取っても相続税がかからないので非課税
生命保険金を他の相続人と分割すると贈与税、代償分割であれば贈与税無しの非課税(遺産分割協議書に記載が条件)
契約者(相続人)が保険料を負担している場合、被保険者死亡時の保険金は一時所得として所得税
遺産分割協議書に記載があれば、代償金に贈与税はかかりません。代償金の支払いは贈与ではないので、基本的に贈与税はかかりません。代償分割はいろいろ難しい問題がありますので、ご注意いただきたいと思います。
つまらない贈与税を相続人が支払うことがないよう、たとえ不公平でもバランスの取れた受取人指定をお願いしたいところです。いくら考えても正解はありませので、腹をくくって決断を下すことです。たぶんあの世に行ってしまえば、生命保険金の受取人指定などどうでもよくなると思います。