元国税調査官から聞いた相続税の税務調査の押さえどころ。

元国税調査官から聞いた相続税の税務調査の押さえどころ。

相続税がかからないと、相続税の税務調査はありません。ありがたいのか不運なのかはわかりませんが、相続税の調査を受けたことも立ち会ったこともない方がほとんどだと思います。

相続税の基礎控除が改正され、すそ野が広がった結果、相続税がかかる人が8.3%、その中で相続税の税務調査を受ける人が2割、さらに非違(非違=法に違反すること。) を指摘されるのがその中の8割以上と言われています。

相続税の納税が必要な方の1.6%が税務調査を受けた結果、非違の指摘を受けるということになります。考えてみれば、確率が低い保険がきかない交通事故のようなものです。

相続税の税務調査は、一生のうち多くても2回まででしょう。ほとんどの方は相続税の税務調査に縁がないのですから、Googleなどで検索される率も低いわけです。

■相続税調査は8割NG、元国税OB税理士にツボを確認。

◆ 元国税調査官はOB税理士。

生の情報が少ない中、しかし、相続税の税務調査にやたら詳しい税理士がいます。それもそのはず、元税務署、資産税担当の調査官で現在はOB税理士という方です。

何しろ国権で税務調査を仕事にしていたプロですから、相続税の税務調査がどういうものか、何を聞かれるか、狙いは何かすべて手の内にありますから詳しいのは当り前です。

その元国税調査官に相続税の税務調査について聞く機会がありましたので、ポイントをまとめてみました。また調査はぶっつけ本番、予行演習はできませんが、想定問答は準備する意味があります。

■国税OB税理士の自己矛盾を暴くと驚く話が山盛り。

◆ 相続税の税務調査の質問項目。

相続税の税務調査で聞かれることを箇条書きにしました。質問には必ず調査する側が確認したいこと、チェックすべきことが含まれています。世間話のようであっても、調査する側には狙いと意図があります。

・被相続人の趣味(趣味にかかわる会員権の所有など)

・被相続人の職歴

・被相続人の家族構成

・入院期間(意思能力または行為能力の有無)とその期間の預貯金の管理者

・相続人及び同居親族の収入源

・被相続人の収入状況とその預金先

・日常の生活費と口座の利用履歴

・各種税金、公共料金などの支払状況

・取引金融機関、証券会社、生命保険会社(担当者の有無)

・通帳、印鑑、各種証書、権利証、測量図面などの保管場所と管理者

・貸金庫の有無

・借入金の使途と内容

・不動産の譲渡にかかる売却代金の使途

・電話帳、香典帳などの確認

・過年度の贈与

◆ 相続税の税務調査は、申告書の確認だけではない。

税務署には強力な調査権限があり、なおかつ支払調書などにより被相続人に関する膨大な情報を収集・分析しています。また相続税の税務調査では、被相続人だけでなく相続人・同居親族のお金の流れを押さえてきます。

金額の突き合わせをすれば、申告漏れや名義預金、過去の贈与などを明らかにできます。銀行預金を介さずに大きなお金を動かすことはできないので、すべて証拠が残ります。

生活実態から見て、過大な現金の引き出しは贈与が疑われます。金融機関などからは過去10年20年分の財産の移動、キャッシュの移動などの資料を収集し実態を暴きます。たとえば、1,000万の使途が不明で、氏神様に寄付したとなっていれば、必ず反面調査が入ります。

税務署に提出された相続税申告書の内容確認のためだけに税務調査が行われるのではなく、被相続人を取り巻く人を含めた総合的な資金の流れを確認されます。

■相続税調査は8割NG、元国税OB税理士にツボを確認。

◆ 相続税の税務調査の内幕。

切れ者の元国税調査官である、OB税理士に聞いた話ですが、相続税の税務調査では8割以上が指摘を受けるそうです。しかし最近は税務署でも人手不足が深刻になり、相続税の税務調査の調査率は20%~12%に低下しているとのことです。

ということは相続税申告の全体の8割以上が、調査なしのお咎めなしということです。裏を返せば申告内容が怪しいもの、資産家、無申告のような問題があるもの、海外資産が絡むものなどに絞り、相続税の税務調査を行っているということになります。

■書面添付制度を嫌がる税理士はやめなさい。

申告内容がしっかりしているもの、書面添付制度による税理士の意見書がついているものは調査対象になりにくいそうです。ひと手間かかりますが、やはりしっかりした申告書というイメージがあるのですね。

一般的に相続税の税務調査は、申告後2年から3年で来るそうです。三回忌の法事も済んだ頃、言ってみれば相続の内容を忘れたことに来るイメージです。

■カンタンにはできない相続税の物納、納税資金がないと一大事。

◆ 相続税の税務調査の実態と泣き寝入りしない抗弁機会。

相続税の税務調査で狙われるのは、富裕層、無申告、海外資産と言われます。知らなかったでは済まない、課税当局の理屈があります。調査官は事前に徹底的に調査分析し、怪しいとにらんだことを確認に来るのです。

蛇ににらまれたカエルとはよく言いますが、ごまかしが通用しません。とくに名義預金と相続が発生する直前の現金の引き出しは疑念を持たれます。

OB税理士によると、個人宅を訪問して調査することを「臨宅調査」と言うそうですが、財産の置き場所を確認し、生前に誰が専有していたかを推測してかまをかけてきます。

ただ扶養義務者間での生活費や教育費などは非課税ですから、不満や不服があればどんどん主張することです。ここは遠慮すると損します。

税務調査では、調査官は必ず外で食事をされます。これは他の税務調査でも同じですが、寿司や鰻の特上を出前してもらっても無駄になります。

相続税の税務調査で非違があった場合、調査通知から更生予知前ですと5%加算、更生予知後だと10%~20%加算となります。仮装や隠ぺいがあると判断されれば35%~50%の重加算税が課されます。

甘く見てはいけないのですが、相続人に不満があれば再調査請求や審査請求もできます。国税不服審判所という選択肢もありますから、泣き寝入りするだけではなく、それなりに抗弁機会もあるということです。

■相続税、妻のへそくりは夫のもとという理不尽。

◆ 相続税の税務調査の押さえどころ、まとめ。

相続税の本来の趣旨は、富の集中の抑制機能にあります。それは社会の公平性につながります。相続人として多額の財産と地位を引き継ぐことで富裕層としての地位が保障されている人もいれば、自分ではどうすることもできない貧困にあえぐ人もいるのが世の中の理不尽です。

相続人として財産を受け取った人から、税という形で徴収することで財産保有の均衡を図ることが相続税の目的です。それを実現する仕組みの一つとして、相続税の税務調査があるということもお忘れなきよう。

相続税が高いという誤解による過度な節税対策に落とし穴。

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