法人保険の解約時期を誤る大損リスクと解約管理のポイント。
法人保険の解約と管理のポイントをまとめました。契約者が会社ですから、会社の経理部門が管理します。事業保障や節税目的で、会社の資金を生命保険に投資しています。
金額が大きくなりますから、法人保険では間違いのない経理処理と、解約管理が求められます。
法人保険は、契約している保険の種類により、経理処理が複雑です。さらに契約時期で、経理処理が異なる場合があります。法人保険は解約管理がとくに重要です。
なかでも経営上の資金需要に応じた、解約返戻率のピーク時期の管理が大事です。それは、解約時に出る雑収入の使い道、いわゆる出口対策につながっていきます。会社の資金を管理する経理担当者は、法人保険に明るくないと困ったことになります。
法人保険は、簿外に緊急予備資金を確保するという意味では、大きな価値があります。しかし現実は、国税庁の通達による規制などがあり、生命保険の仕組やルールが複雑になりすぎました。このため、適切な法人保険管理は、機能していないというより、最初から破綻しているというべき実態があります。経理処理の間違いだけでない、法人保険のリスクを整理しました。
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◆ 実務上のリスクを6項目にまとめました。
保険契約は長期にわたる管理になりますから、単純なリスクがつきものです。さらに管理ができていないと、大きな損失につながることが起こり得ます。
もっと言えば、法人で契約する生命保険は、目的が多彩であり、専門的な知識がないと、正しい処理がわからないということがあります。
複雑になりすぎた保険契約を正しく管理し、適切な時期に解約して運用するということは、簡単なことではありません。しかし、誰かが責任をもって管理しなければなりません。リスクを自覚することは、適切な保険管理への第一歩といえると思います。
その1)保険契約を忘れるリスク。
最も人間的なリスクですが、解約時期を忘れるというより、その法人保険が解約を前提とした保険契約であることを忘れるリスクがあります。
今はメリットが小さくなりましたが、節税保険を契約するとき、事業保障を考えていることは、元々あまりありません。解約し解約返戻金を手にすることだけが目的なのです。
その目的を忘れ、普通の事業保障を目的とした保険と同じようにあつかってしまうリスクがあります。
まさかと思われるかもしれませんが、法人保険に関して言えば、本当にそんなことがあるのです。人は忘れる生き物です。忘れるリスク、実は一番大きなリスクです。
その2)管理する人が変わるリスク。
人が変わるというのは、性格が変わるという意味ではなく経理担当者が変わるという意味です。経理担当者といえども定年があります。
しかしそこまでいかなくても、人が変わることは珍しくありません。経理担当者が変わると、引き継ぎはうまくいかないものです。
前任者の情報は引き継がれないばかりか、後任は引き継いだ情報を理解しようとはしないものなのです。まして経理処理は、手法が違うことが往々にしてあり得ます。
人が変わるリスクは、大穴を開ける可能性すらあります。法人保険では、人が変わるリスクは意外と大きいのです。
その3)試算表の保険料からは読み取れない。
毎月税理士を迎えてP/Lを作成し、売上や営業利益などの財務状況を確認する会計報告会は、いずこの会社にもあると思います。月単位の試算表を作成して、経営幹部と財務管理者が会社の経営状況を数値で報告し分析します。
中小企業では多くの場合、昨年度との比較を分析の基本としています。ここに落とし穴があります。昨年度と異なる数字には興味が向きます。しかし昨年どおり支払われている保険料からは、問題点を見つけることはできないのです。
毎月検証しても、その費用の意味がわかっていないと、何をなすべきかわかることはありません。保険料口座振替のような単純な出金は、毎年同じ経理処理をしてしまいます。これが危ないということは、経理担当者にはお分かりいただけると思います。
その4)保険の提案書から解約時期は読み取れない。
保険を提案するときは、必ず提案書で説明します。そのときはその保険の真意を理解していて、提案書は大事にしまい込みます。
しかし提案書に解約返戻金は書いてありますが、解約時期は書いてありません。もちろん保険の目的も書いてありません。節税目的など一言も書いてありません。
ひとたび提案書が保存されると、そこからその法人保険の真の目的は見えなくなってしまいます。
保険会社にすれば、節税目的の保険であることは表だって言うことはできません。このため肝心の目的である解約時期のことは、提案書では全くわかりません。
それは仕方がないことで責任は、契約者にあります。保険会社は、間抜けな契約者が解約時期を忘れることで、大きな利益をあげることができます。
損金が本当に損金になり、保険会社の利益となるとき、契約者は大損をすることになります。
その5)気が付けば大損、知らずに満期の大損。
まだしも自分の損失に気がつけば、反省もするでしょうが、ひどいケースではそのまま満期を迎えるという最悪のケースさえあります。
最後まで気がつかないと、逆に幸せかも知れないのですが、それでは悲しすぎるというものです。
法人保険は、保険料も半端ではありません。それを数年も積み立てているのですから、払込保険料の累計は巨額になります。
もともと損金で落としていますから、戻りがなくても気にならないのでしょうか。莫大な簿外の貯金に、気がついていないとしか考えられません。
その6)税理士をあてにしてはいけない。
税理士という職業は経理の専門家ですが、保険の専門家ではありません。かなりの税理士が、保険をあつかうことを潔しとしないのです。
利益相反という意識があるのでしょうか。保険を売ると責任問題が発生するからではないかと思います。
税理士は、法人保険と距離を置こうとしがちです。もちろんそうでない税理士もいますが、やはり税理士に保険の管理を期待するのは、間違いだと言えるでしょう。まして解約時期の管理などを、税理士に期待するなど筋違いというべきです。
法人で契約する保険の管理と言えば、保険料の支払いだけではなく保険積立金の管理、解約の時期の管理などが重要になってきます。すすめられるままに、あるいは節税目的で、期末ぎりぎりにとりあえず契約するような場合があると思います。
そういう場合は、解約時期の管理さえできていないということがあります。法人契約の保険は事業保障だけが目的ではありませんから、リスクを理解した上で、しっかりとした解約管理が重要です。
◆ 保険会社は指定の書類が提出されれば支払。
保険会社は解約返戻金の支払いに必要な要件が満たされた書類が揃い、それが真正であればためらいなく支払います。
保解約に必要な書類は、各社微妙に異なります。保険証券を必要とする会社、必要としない会社があります。
最近の傾向として、保険証券は重要な意味をもつものではなく、契約の覚えのような機能になりました。紛失すれば再発行の請求をすればよいし、解約するときに保険証券がなくても実印と印鑑証明があれば事足ります。最近では印鑑も必要なければ、保険証券も発行しない会社もあり、より管理がやりにくくなっています。
実印は金額により不要な会社と、必ず実印と印鑑証明を求める会社があります。金額により不要な会社では、解約返戻金が少額の場合(例:100万以下)証券面の印があれば解約は可能です。すなわち実印でなくても、解約返戻金は入金されるケースがあります。
解約返戻金の振込口座は、もともとの引き落とし口座になります。「※契約者様名義の口座に限ります。」と記載されていますのでここで一応の歯止めがかかります。ただし契約者様名義の口座に限ります。と記載されていない解約請求書を見たこともあります。別口座を指定することも可能だと思いますが、これは同じく契約者様名義の口座かどうかの確認が入ることでしょう。
◆ 法人保険、解約管理のポイント。
法人保険の解約返戻金は、会社の継続に必要な緊急資金です。また法人で契約している保険を解約するということは、その分の保障がなくなります。様々な責任が伴う保険契約の管理ですから経理責任者任せにしてはいけません。経営者自らの責任と判断で、解約時期を押さえておくことが望ましいと言えます。
保険管理のポイントは、下記の項目に分けてきちんと保険契約をリスト化し、定期的に管理すべきです。
・短期で解約すべきもの
・長期的に管理すべきもの
・解約時期が比較的自由なもの
事業保障を目的とする保険は、保険事故が起こるまで放っておいても大きな問題は起こりません。保険金請求には一応の時効がありますが、ほとんどの保険会社は少々の時効の経過にかかわらず、必要書類が整えば保険金を支払うと思います。
もちろん養老保険のように満期のくる保険も保険会社からきちんと案内がきますから、忘れていても大丈夫です。でも節税目的の生命保険には、お知らせ機能がないものが多いのです。解約時期を誤ると、大きな損をする可能性があります。
がん保険にしても、被保険者の年齢が高くなると返戻率が悪化してきます。福利厚生目的なら解約はおかしなことですが、節税目的なら解約返戻率が下がり始める前に解約しないと損をする事になります。
そこまできちんと面倒を見てくれる代理店はありません。やはり自己責任で保険管理をすべきなのです。
■法人生命保険の解約返戻金を把握することがピンチの会社を救う。
◆ 解約返戻金推移表をエクセルで作成。
もう一つの管理の切り口として、事業保障の合計額と解約返戻金の推移も時系列で一覧表にしておいてください。保険契約の全体像が把握しやすくなり、処理忘れがなくなります。これは手間がかかりますが、簿外のキャッシュフローが明確になり、設備投資などの計画が立てやすくなります。
この辺は自分の使い勝手が良いように、フォームを設計すればよいと思います。集計表は、毎年の解約返戻金額をエクセルに入力することで契約している保険全体の概要がつかめます。
解約返戻金を含めて、総合的な保険管理には専門的な知識と経験がある程度必要になります。解約返戻金の集計表を作る過程で理解が深まるものと思います。
◆ 法人保険の解約管理、まとめ。
法人保険の解約管理を考えるとき、かかわってくる保険営業の人生という問題があります。生命保険契約は長いが保険営業は短い、担当者は変わるのが当たり前ということをお伝えしたいと思います。
法人保険の出口戦略が大事なことは、何度も書きました。ただその時期はたいてい何年か先、あるいは何十年か先になります。
生命保険を提案してくれた担当営業にも、定年退職はあるでしょう。また多くは途中廃業か転職で、せっかく出口戦略を提案した当人がいなくことも十分あり得ます。生命保険業界は、流転激しき世界です。3年で大部分の人が入れ替わるという話もあるくらいです。
・保険は契約は長いが、保険営業は短い。
金融庁の通達が連発され、どんどん節税保険の締め付けが厳しくなました。保険代理店の食い扶持となっている、主要スキームのほとんどが封じられてしまいました。
その結果、転職する人、廃業する代理店が増加してきました。大手代理店に集約されつつあるように思います。当然、人も入れ替わり担当者も変わります。生活しなくてはなりませんから、自分が取り扱ってもいない生命保険契約に、手間暇かけている余裕はないというのが本音なのです。
生命保険契約は長きにわたりますが、それを扱う保険営業は短いということです。保険代理店の事情、金融庁の締め付け、世間の景気等々で保険は様変わりします。人間、生身ですから担当者がいつまでも元気で、同じ保険営業を続けられるとも限りません。
ましてや銀行や証券会社など、保険販売の窓口としては頭からメンテナンスのお付き合いには不向きです。ほとんどの法人保険担当者は、生命保険の出口案内をする前に退職するか廃業するということです。
・保険の解約管理は自己責任。
結局、保険の解約管理は、自己責任に帰結することが多いと考えなくてはなりません。それだけにしっかりと契約内容を理解しておいてください。提案書を見れば内容を思い出せるまで、書き込みをした提関連資料を保存しておくことです。
自分が十分わかっていないテクニックや、解約時期が限られているような生命保険商品を出来るだけ避けることです。それがまずは安全対策です。たとえば長期平準定期保険のように、解約返戻率の山がなだらかに数年以上続くような、解約時期リスクの低い商品をメインに組み立てておくことです。
そうすれば、法人保険の解約管理も比較的シンプルになるものと思います。
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