相続時精算課税制度とは、改正後のメリットをわかりやすく。

相続時精算課税制度とは何か、メリット&デメリットをまとめました。
令和5年度の改正により相続時精算課税制度が使いやすくなっています。
別枠で基礎控除110万円が新設され、しかも相続直前でも相続財産に持ち戻す必要がありません。これは持ち戻し期間が3年から7年に延長された暦年贈与より使い勝手がよくなりました。
今後、生前贈与をお考えの方は、まさに相続時精算課税制度一択と言えると思います。
ただし相続時精算課税制度を選択するためには、贈与税の確定申告が必要であり、相続時精算課税制度選択届出書を提出しなければなりません。
相続時精算課税制度は、今の時点で2,500万円までの贈与に関して贈与税を納める必要はありません。しかし相続のときに改めて、相続税と精算して課税しますという制度です。制度としての節税効果はなく、贈与課税の繰り延べ制度と言えると思います。
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◆基本的な相続時精算課税制度のルール。

・60歳以上の両親、祖父母から18歳以上の子や孫への贈与に適用(贈与年の
1月1日の年齢))
・2,500万の贈与税の特別控除(一時的に非課税でも相続時に持ち戻し精算)
・2,500万を越える部分は一律贈与税20%(一時的税率、相続時に持ち戻し
精算)
・何でも、いくらでも、何回でも贈与可能(現金・不動産・保険・金融資産全般)
・贈与税の確定申告必要、相続時精算課税制度選択届出書、他証明書類(贈与年の翌年2月1日から3月15日までに贈与税の申告)
・最終的に相続税が基礎控除内なら申告不要、贈与税を納めていれば確定申告で還付。
・一度相続時精算課税制度を選択すると、暦年贈与には戻れない。
暦年贈与は受贈者(もらう人)単位の基礎控除(110万円)であり課税です。しかし相続時精算課税制度は、暦年贈与に後戻りできませんが、両親だけでなく祖父母からの贈与もOKです。相続時精算課税制度は、贈与者(※)単位で何本も走らせることができます。これは暦年贈与と相続時精算課税制度の本質的な違いです。
(※相続時精算課税制度での贈与者は、特定贈与者と呼ばれます。)
養子縁組を利用すれば、さらに相続時精算課税制度が可能です。1対1の贈与であり、かつ不可逆的(後戻りできない)な相続時精算課税制度です。
◆ 相続時精算課税制度の勘違いするポイント。

この制度の使い道は、相続税がかからない人が贈与税をかけずに資産移転すると
きに有効です。また将来的に値上がりが予想される不動産や、収益物件の贈与で
は、物件の評価を贈与時に固定するので意味があります。
また相続時精算課税制度は、事業承継・相続設計で評価を一時的に下げた自
社株を一気に贈与するときなどに利用されます。
普通の相続税がかかるような相続のケースでは、暦年贈与でこつこつ渡していく
ほうが相続時精算課税制度より節税効果は高く確実でした。
しかし令和5年の改正により、暦年課税の相続への持ち戻し加算が7年に延長さ
れました。さらに相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が新たに創設
され、この贈与は相続への持ち戻し加算が不要とされました。
この結果、生前贈与で相続税の節税を狙うのであれば、相続時精算課税制度の選
択がベストとなりました。暦年贈与から相続時精算課税制度への移行選択が、今
後大きく増加するものと考えられます。
相続時精算課税という仕組み自体の適用範囲が狭いこと、非課税という言葉が出
てくるのに実際は節税効果が期待できない仕組みであることがデメリットとなっ
ていました。また手続きが煩雑なことなどが影響して、どうも勘違いが多い相続
時精算課税制度となっていました。
暦年贈与より手続きに手間がかかりますが、今後は相続時精算課税制度を選択し、
生前贈与を行うことが一般化すると考えられます。
◆ 相続時精算課税制度のわかりにくさの原因。

相続時精算課税制度は、暦年贈与とは本質的に方向性の異なる、実にややこしい
制度なのです。相続時精算課税制度の狙いは、親から子への早期の資産移転を
目的としています。
2,500万円まで非課税などと書けば、普通の人は勘違いすると思います。
その2,500万までの特別控除額を越える部分の贈与税は、一律20%と
いえばこれまた勘違いの原因になります。とにかく相続時精算課
税制度には、制度としての節税効果はありません。
相続時精算課税制度で受贈した財産が、たとえ値上がりしてもそれは制度として
の節税効果ではなく投資の運用成果です。
◆ 相続時精算課税制度は、誰にとってメリットがあるのか。

将来的に値上がりが確実なものがあれば、相続時精算課税制度は有効な手法です。
贈与税の申告時点で評価が固定します。かりに相続時に値上がりしていても、相
続税評価には影響がありません。逆にどれだけ下がっていても、見直しはありま
せん。
採算の取れている賃貸の収益物件などは、将来的に安定した家賃収入が見込める
物件であれば相続時精算課税制度が有効とは言えます。しかしながら相続発生が
10年先か20年先か、もっと先かということになれば、そのときに果たして贈
与した時点より価値ある物件であるかどうかは、誰にもわかりません。
相続時精算課税制度は、当初の目論見に対する答えの出るのがずっと先になりま
す。それが相続時精算課税制度のわかりにくさの一因でもあります。
◆ 相続税がかからなくても、相続時精算課税制度の思いがけない使い道。

養老保険の満期金の受取でも、契約者(保険料負担者)以外が受け取る場
合は贈与になり基本的に贈与税が発生します。でも相続税がかかるようなめぼし
い財産もなく、将来的にも相続税がかからないのに、贈与税を払う気にならない
ところです。
そんなときには思いがけないというか、まさかの相続時精算課税制度の出番にな
るわけです。普通、相続時精算課税制度をこんな使い方をしているかどうか、検
索だけでは読み切れませんでした。
税務署は間違いなくあなたが満期金を受け取ったことを、生命保険会社からの支
払調書で知っています。税務署は調査権限(正しくは質問検査権)があります。
あなたを含め家族名義の金融機関のお金の動きはすべて把握できますから、実際
逃げ場はないのが本当のところです。
・税務署からお尋ねが・・・
養老保険の満期金を子の名義に変更したいのであれば、税務署からお尋ねという
か通知が来る前に、相続時精算課税制度を利用して贈与税の申告をしてしまうこ
とです。
なにしろ2,500万までは非課税ですから。その後相続に突入して相続財産が
基礎控除以下なら本当に完全な非課税になります。これならなるほど制度的な意
味があります。
同様の考え方で、相続税がかかるかどうか以下の小金持ちの親御さんは、子の住
宅購入資金でもローンの支援でも相続時精算課税制度を使い非課税で贈与する
のが利口な方法です。
ただ贈与税制には住宅取得資金の贈与(※)という別枠があります。あわせてご
利用いただくと結構高額なマンションが買える金額になります。
(※令和6年度税制改正により、住宅取得等資金贈与の非課税特例の適用期限が、
令和8年12月31日まで延長されました。これに伴い、非課税上限額が決まる住宅の種類など、適用要件の見直しも行われました。)
※注意事項があります。
一つは住宅取得資金とローンの返済は、同じではありませ
ん。住宅ローンの返済は取得後の借入金返済ですから、住宅取得資金ではないそ
うです。
子の住宅ローンの返済を相続時精算課税制度で支援したければ、現金を贈与し相
続時精算課税制度で非課税とすることです。(嫁の親が支援する場合は、娘の亭
主の名義のマンションでは親子関係がないと相続時精算課税制度は使えないことになります。
娘に相続時精算課税制度で一括贈与し、娘が亭主に貸し付けて定期的に返済させ
るような回りくどい方法になりますが仕方ありません。)
◆ 相続時精算課税制度を事業承継に本格的に利用するケース。

相続時精算課税制度が最も有効に使えるのは中小企業の事業承継・相続設計です。
とくに自社株を生前に後継者に贈与するときに威力を発揮します。
長年にわたり利益が出てきたような中小企業は、内部留保が膨らみ知らないうち
に自社株はとても高くなっています。
新株予約権付社債の発行やら役員退職金の支給などで自社株評価を下げて相続時
精算課税制度で贈与税を払いつつも一気に後継者に贈与してしまいます。
若き後継者には意欲はあっても、自社株を買い取るような資金はありません。
贈与税の納税資金を含めて、贈与する必要があります。何の対策もしないで相続
発生まで持ち越すと自社株は時価で評価され、莫大な相続税ということになりか
ねないのです。これは相続税対策としても大きな意味があります。
◆ 相続時精算課税制度の手順と必要書類。

また相続税がかからなくても、相続時精算課税制度は税務署への申告が必要です。
ただし相続時精算課税制度に基礎控除110万円が創設されましたので、基礎控
除以下の贈与であれば申告は不要です。
この辺の判断や考え方、申告手順まで踏み込んで解説します。贈与税の申告は前
年一年の受贈分を受贈者が2月1日から3月15日までに税務署に申告します。
相続時精算課税制度では、申告書の他に「相続時精算課税選択届書」を提出します。
それ以外の書類です。
・受贈者の戸籍謄本(受贈者の氏名、生年月日、推定相続人である子又は孫であることを証明する書類)
・受贈者の戸籍の付表の写し(受贈者が18歳に達した以降の居所を証する書類)
・贈与者の住民票の写し(贈与者の氏名、生年月日、60歳に達した以降の居所を証する書類)
とまあいろいろそろえなくてはいけないわけです。たびたび提出する書類でもな
いのでその都度の確認が必要ですが、つまらない贈与税を払わないためにはそれ
なりの手間が発生します。
◆ 相続時精算課税制度、まとめ。

もともとの制度の趣旨から外れて、いろいろな用途が発見され広まっていきます。
令和5年の制度改正で、相続時精算課税制度が生前贈与対策では圧倒的に
有利になりました。知り合いの国税OB税理士は、相続税がかかるなら相続時精算
課税制度一択になったと言っています。
まだまだ使い道はアイデア次第のようにも思います。
国税庁のPDFのリンクをご覧ください。わかりやすい図があるのですが、文面は
何度も読みかえさないと理解しづらいものがあります。
☆令和5年度 相続税及び 贈与税の 税制改正のあらまし(国税庁)
(令和6年1月1日施行)
今回の改正で、高齢者世代がため込んでいる資産を、若年層に移転させようとす
る意図が見えます。経済を活性化するには、それも必要なことのように思います。
ただ高齢者の仲間入りを前に思うことは、老後資金の不安です。わが子といえど
も自分の老後を託す時代ではなくなりました。
子には子の家族があり生活があります。高齢化すると体も弱り気力も衰えがちで
す。大病でもすれば経済的な困窮も想定されます。
さらに済んでいるマンションの老朽化も進みました。どこで大金が必要になるか
わかったものではありません。相続時精算課税制度は、使いやすくなりました。
しかし、資産家でもない限り、世知辛い自己責任の時代では財布の紐が緩むこと
は、あまり期待できないように思います。

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